極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 ヘンな話だが、鐘崎の嫉妬心を呼び起こすには周あたりが打ってつけなのだが、記憶が戻った後のことを考えると、周としては遠慮したいところのようだ。
「まあカネの記憶を取り戻す為なら一肌脱ぐのもアリだがな。後々本気でヤツに恨まれそうだ」
 周が口をへの字に曲げて「うーむ」とうなる姿に皆笑いを誘われる。
「だったら俺はどう? 倫周さんにメイクしてもらって、ちょっと男臭く仕上げてもらえば案外イケるかもだし、鐘崎さんもそんなに怒らないんじゃないかなぁ」
 冰が期待顔で身を乗り出してくる。
「お前がか? いくらメイクしたとしてもカネが反応するかは怪しいところだと思うがな。というよりも怒らねえってことは、イコール妬かねえってことだろうが」
 周が冷やかすような口ぶりで苦笑する。
 男の本能というのは案外正直なものである。人畜無害で、しかも普段は抱かれる側の冰を鐘崎が自分のライバルと見なすかどうかといえば、可能性としては低いだろうか。
「やっぱ俺じゃダメかぁ」
 残念そうに肩を落とす冰の傍らで、今度は倫周が口を挟んだ。
「それなら春日野君は? 男前だし、遼二君もピピッとくるかもよ!」
 いい案だとばかりに矛先を振られたが、当の春日野はそれこそとんでもないと言って真っ青になりながらブンブンと首を横に振ってみせた。
「か、勘弁してください! それこそ記憶が戻られたら若から天誅を食らいそうですよ!」
 大真面目な顔をして蒼白となっている様子に、皆からドッと笑いが起こる。
 こんな非常事態にあってもこうして朗らかな雰囲気でいられるということは、裏を返せば必ず記憶を取り戻して鐘崎が帰って来ると信じているからである。
「だったら紫月の相手は俺が演ろう。遼二にとっちゃ俺は普段から頻繁に顔を合わせてる相手じゃねえし、見慣れてねえ分、本当に見ず知らずの客に映るだろうぜ?」
 レイが自信満々で名乗りを挙げる。この俺様の演技力をもってすれば、男の嫉妬心を掻き立てるのなんざ朝飯前だと誇らしげである。
「そいつぁいいな! レイさんなら包容力のあるオトナの男の色気爆盛りだし、何よりイケメンだから遼の嫉妬心をくすぐるにはもってこいだ!」
「だろぉー?」
 当の紫月にも絶賛されてレイはご満悦だ。
 今は二月の下旬である。ちょうど桃の節句が間近なので、大きな花魁道中を催すにはまたとない機会ともいえる。
「ではご主人の伊三郎氏にも協力を仰ぎましょう。向かいの遊女たちの遊郭からも花魁を出していただいて、街を上げての道中となれば、見物客も大勢訪れるはずです。若が囚われている邸を出てそれを見物したとしても、そうは怪しまれずに済むでしょう」
 源次郎は早速主人の伊三郎に言って、桃の節句の催しのお膳立てを依頼することに決めた。
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