極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
543 / 1,212
三千世界に極道の華

66

しおりを挟む
 ヘンな話だが、鐘崎の嫉妬心を呼び起こすには周あたりが打ってつけなのだが、記憶が戻った後のことを考えると、周としては遠慮したいところのようだ。
「まあカネの記憶を取り戻す為なら一肌脱ぐのもアリだがな。後々本気でヤツに恨まれそうだ」
 周が口をへの字に曲げて「うーむ」とうなる姿に皆笑いを誘われる。
「だったら俺はどう? 倫周さんにメイクしてもらって、ちょっと男臭く仕上げてもらえば案外イケるかもだし、鐘崎さんもそんなに怒らないんじゃないかなぁ」
 冰が期待顔で身を乗り出してくる。
「お前がか? いくらメイクしたとしてもカネが反応するかは怪しいところだと思うがな。というよりも怒らねえってことは、イコール妬かねえってことだろうが」
 周が冷やかすような口ぶりで苦笑する。
 男の本能というのは案外正直なものである。人畜無害で、しかも普段は抱かれる側の冰を鐘崎が自分のライバルと見なすかどうかといえば、可能性としては低いだろうか。
「やっぱ俺じゃダメかぁ」
 残念そうに肩を落とす冰の傍らで、今度は倫周が口を挟んだ。
「それなら春日野君は? 男前だし、遼二君もピピッとくるかもよ!」
 いい案だとばかりに矛先を振られたが、当の春日野はそれこそとんでもないと言って真っ青になりながらブンブンと首を横に振ってみせた。
「か、勘弁してください! それこそ記憶が戻られたら若から天誅を食らいそうですよ!」
 大真面目な顔をして蒼白となっている様子に、皆からドッと笑いが起こる。
 こんな非常事態にあってもこうして朗らかな雰囲気でいられるということは、裏を返せば必ず記憶を取り戻して鐘崎が帰って来ると信じているからである。
「だったら紫月の相手は俺が演ろう。遼二にとっちゃ俺は普段から頻繁に顔を合わせてる相手じゃねえし、見慣れてねえ分、本当に見ず知らずの客に映るだろうぜ?」
 レイが自信満々で名乗りを挙げる。この俺様の演技力をもってすれば、男の嫉妬心を掻き立てるのなんざ朝飯前だと誇らしげである。
「そいつぁいいな! レイさんなら包容力のあるオトナの男の色気爆盛りだし、何よりイケメンだから遼の嫉妬心をくすぐるにはもってこいだ!」
「だろぉー?」
 当の紫月にも絶賛されてレイはご満悦だ。
 今は二月の下旬である。ちょうど桃の節句が間近なので、大きな花魁道中を催すにはまたとない機会ともいえる。
「ではご主人の伊三郎氏にも協力を仰ぎましょう。向かいの遊女たちの遊郭からも花魁を出していただいて、街を上げての道中となれば、見物客も大勢訪れるはずです。若が囚われている邸を出てそれを見物したとしても、そうは怪しまれずに済むでしょう」
 源次郎は早速主人の伊三郎に言って、桃の節句の催しのお膳立てを依頼することに決めた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】 ────────── 身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。 力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。 ※シリアス 溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。 表紙:七賀

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...