極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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「なるほど! そいつぁ最高ですね!」
「よし、それじゃ早速三浦屋に潜り込ませてある田辺に言って、その傷野郎を拐ってくるように言え。怪しまれねえようにメシにでも混ぜて眠らせちまえとな。こっちからも数人を応援に出して、真夜中ヤツらが寝入ったところに忍び込んで連れ出すんだ。花魁の部屋までは田辺に導きをさせて、くれぐれも三浦屋の連中に気付かれねえようにとな。抜かるんじゃねえぞ!」
 敵方でそんな企みがなされていることを知る由もない鐘崎らにとっては、嵐の前の静かなひと時が流れていたのだった。

 そして翌々日の朝のことだ。
 もう昼になろうというのに鐘崎と紫月が起きてこないことを不思議に思った源次郎が、二人の様子を見に行ったところで異変に気付くこととなった。
 表向きは花魁を買っている客という名目もあって、二人は毎晩プライベートスペースの方ではなく花魁の座敷の方で寝泊まりをしていたわけだが、布団の中には紫月が熟睡しているだけで鐘崎の姿が見当たらない。厠をはじめ思い当たるところを見て回ったがどこにもおらず、さすがにおかしいと思い紫月を揺り起こしたがなかなか起きない。そこで初めて薬を盛られたことに気付き、皆は騒然となったのだった。
「カネが消えちまっただとッ!?」
 話を聞いて驚いた周が紫月を起こすべく、源次郎の元へと駆け付けて来た。いかに親友といえど睦み合っただろう寝所に押し入るのは通常時なら遠慮するところだが、こうなったらそうも言っていられない。
「一之宮! おい、一之宮! 起きろ!」
 耳元で叫びながら肩を掴んで強引に揺り起こす。
「紫月さん! 紫月さん、大変なんです! 鐘崎さんがいなくなっちゃったんですよ!」
 冰も一緒になって叫び続けた。
「……ん、あ……? 氷川……」
 とりあえず目は開けたものの、半分は夢の中といったふうにぼうっとしていて起き上がれずにいる。
「一之宮! カネの姿が見当たらねえんだ! お前ら、一緒じゃなかったのか?」
「……? 遼が……ど……したって?」
「おい、しっかりしろ! 一之宮、聞こえてっか?」
 相槌は打つものの、すぐにまた眠りに落ちてしまうといった具合である。
「こいつぁ……しばらく起きられそうもねえ様子だ」
「――ええ、視点が定まっていらっしゃらない。やはり強めの睡眠薬のようなものを盛られたようですな……。とすると、――若は昨夜の内に敵方に連れ去られた可能性が高い」
 源次郎はすぐさま隣の茶屋から組員の橘を呼び寄せると、彼と共に敵のアジトへと偵察に向かうことにした。だが、その間ここの三浦屋がガラ空きになるのはまずい。それではと源次郎の代わりに周が橘と共に行ってくれると言うので、源次郎と春日野は残って留守を守ることに決めた。
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