極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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「俺からも礼を言いたい。敵の奴らがここへ押し掛けて来た際に皆が身を盾にして冰を庇ってくれたと倫周に聞いた。それに一之宮の神業といえる剣術で守ってくれたんだってな。離れていて何もできねえ俺たち亭主に代わって、皆で互いを守り合い、こうして無事でいてくれた。本当に有り難いと思っている」
 周もまた真摯に礼を延べ、そんな二人の亭主たちに源次郎はじめ皆も嬉しそうに互いを見つめ合う。ようやく再会できた安堵感も相まってか、久しぶりの穏やかな空気に包まれて、誰もが共に居られることの幸せを噛み締めた瞬間であった。
「でもホント! 紫月さんの言う通り、俺も白龍の顔を見た瞬間に気持ちがワワワーってあふれたっていうか……何だか躍り出したくなっちゃったというか……。嬉しいのはもちろんだけど、顔を見ただけでものすごく安心できて、もう何も怖いものはないって思ったし、普段はなかなか気付けない思いを改めて自覚できたというか……。それに何と言っても……鐘崎さんの傷も素敵ですけど白龍の白髪もよく似合っててドキドキしちゃった! やっぱり……ちょっと年をとった白龍もカッコイイなぁ」
 冰は冰で、渋さを増した亭主をベタ褒めだ。
「おめえだってなかなかに似合ってるぜ、冰! ルーレットやカードを弄っている時もそうだが、壺を振る時の仕草なんぞ粋を通り越してまさに芸術品だ」
 いつもは下ろしている前髪をヘアワックスで後方に撫でつけたワイルドなスタイルも周の目には新鮮に映ったようだ。まさに壺振りのイメージにふさわしい。周もまた、鐘崎が紫月の髪や頬を撫でていたのと同じように、ヘアワックスで濡れた伴侶の髪をクルリと指に巻き付けながら、愛しげに瞳を細めては感慨深げにしていた。
「白龍ったらさ……」
「とにかく皆無事で良かった」
「うん! うん、来てくれてありがとうね白龍! 鐘崎さんも――!」
「ああ、遅くなってすまなかったが――」
 今一度ハグをし合う四人を囲みながら、地上にいた頃と何ら変わりのない穏やかな時間を分かち合う一同であった。
「はは、お熱いことで結構なこった! とにかくこれで遼二と焔とも合流できたことだし、一安心だな」
 レイが冷やかしながらも安堵の言葉を口にし、和やかな空気に座敷内は喜びの笑顔であふれていった。



◇    ◇    ◇



 その後は客の為に用意されていた膳を囲みながら、皆で状況の整理をすることとなった。
「しかし冰、よく俺のニロクを読み解いてくれたな。さすが――を通り越して神業としか言いようがねえ」
 鐘崎が感心しきりでいる。
「ええ、だって鐘崎さんが”誕生日”っていうヒントをくれましたから」
 参謀の男も言っていたが、今日は二月の十七日である。鐘崎の誕生日は六月六日だから、すぐにそれは嘘だと分かる。とすれば、これは鐘崎からのメッセージであると思ったわけだ。
「最初は六のゾロ目――ロクゾロの丁だと思ったんです。でもその後すぐに紫月さんが俺の方に目配せしてくださったでしょ? だからきっとお二人の誕生日を合わせたニロクの方だと思って」
 紫月の誕生日は二月の二日である。つまり二日と六日の”ニロク”を指していたというわけだ。
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