極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 次の日からは男花魁と一夜を過ごした客が出たというので、男色の客がこれまで以上に押し寄せる大盛況となった。紫月らにとっては喜ばしいことではないが、茶屋にしてみれば大歓迎である。花魁には手が届かない客も他の男娼を指名して、ここの茶屋だけではまかないきれないほどとなっていった。周辺の茶屋もそれに引きずられて続々と客足が増え、連日満員御礼で追い返される者たちが出るほどだ。この地下の遊郭街始まって以来の大騒ぎとなり、所々で店に入れない客同士の諍いまで勃発する始末である。まさに火事と喧嘩は江戸の花の如く、街には活気があふれていった。
 そうなってくると、賭場師の冰の方も大忙しである。当然、紫月の貞操を守る為に勝ちを譲るわけにもいかない。腕は確かな冰であるから負けるという危惧はなかったものの、何度挑もうにも破れない賭場の噂で持ちきりになり、それが裏目に出て、ここを乗っ取った者たちの耳に届いてしまうという新たな窮地に陥ってしまったのだ。
 それはある夜のことだった。いつものように花魁道中に出掛けようとしていた紫月らの座敷に著しくガラの悪い男たちが数人で押し寄せて来ることとなったのだ。誰もが着流し姿で、短刀どころか長い真剣を携えて、土足のままで最上階まで登って来るという異常事態である。彼らの後ろからは血相を変えた主人が番頭を引き連れて、必死で止めにかかる叫び声が館内に響いた。
「お待ちください! 今宵は既に御予約のお客様で埋まっております故!」
「うるせえ! つべこべ抜かしやがるとてめえもこの場で叩き斬るぞ!」
 無法者たちは明らかに乗っ取りを図った組織の者であろう。座敷の襖を我が物顔で乱暴に蹴破ると、賭場で待っていた冰に向かって突如長い刃を突き付けてよこした。
 当然黙って見ている源次郎ではない。春日野と二人で即座に冰を守るべく彼の前へと歩み出た。
「何をなされる! いきなり失礼ではありませんか!」
 源次郎は精鋭だが、見た目は初老である。舐めてかかった男たちが「うるせえ! ジジイはすっこんでろ!」と、彼の頬に平手打ちを食らわした。
「用があるのはこの壺振りにだけだ! 関係ねえヤツらは口出すんじゃねえ!」
「さもねえと全員まとめてぶった斬るぞ!」
 下品な怒号で威嚇する。茶屋の主人と番頭などは真っ青な顔をして彼らの後方で縮こまってしまっていた。
「おい、壺振り! てめえ、随分と腕がいいって話じゃねえか。こんなところで花魁の為だけに壺振りさせとくんじゃ勿体ねえ。今日からは俺たちが本物の賭場で使ってやらぁな!」
 冰の腕を掴んで連れて行こうとしたその時だった。
「やめなんし!」
 座敷の一等奥に座っていた紫月のハスキーボイスが欄間を抜けて天井にまでこだました。
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