極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 彼らを尾行しているか、もしくは様子を窺っているような怪しい人物がいたかと訊かれても、ある意味全員が怪しい括りに入ってしまうと言って店員は苦笑している。店内にいたほぼすべての客が買い物そっちのけで紫月らの一団に気を取られていたようで、特に記憶に残る人物に心当たりはないとのことだった。
 仮に今回の拉致が周ファミリーか鐘崎組に対する怨恨または身代金などが目的で、誘き出す人質として皆が拐われたのであれば、とっくに何らかのコンタクトがあってもいいはずだ。だが、今のところそういった動きはまったくない。
「敵の目的は俺たちじゃねえってことか。とすると、やはりレイ・ヒイラギが目当ての線しか考えられねえが……」
 念の為、香港のレイの所属事務所にも連絡してみたが、特に変わったことはないという。身代金の要求はおろか、怪しいコンタクトなども来ていないそうだ。
「クソ……ッ! 目的はいったい何だってんだ」
 確かに敵の目的が分からなければ動きようがない。焦る周と鐘崎の元に海外に行っている父親の僚一から連絡が入ったのは、拉致から八時間余り後の次の日に日付けが変わろうとしていた時だった。僚一の背負っている任務は命の危険を伴うことも多く、いつもハードである。これでも早い方といえた。
『そっちの調べはどうだ。手は尽くしているんだな?』
「ああ……。紫月らが立ち寄った店や周辺に聞き込みをかけたが今のところ有力な手掛かりは上がってこねえ。情けねえが八方塞がりだ」
『俺の方でも少し調べてみたが、組に恨みを抱いていそうな連中の仕業ではなさそうだ。可能性のある組織や人物の動向をザッと当たってみたが、それらしい動きは見当たらなかった』
「親父の方でも手掛かりなしかよ……。正直どうしていいか見当もつかねえ」
 珍しくも弱音を吐く息子に僚一としても事の重大さが身に染みる様子である。
『まあそう焦るな。お前らが苛立って焦れていたんじゃ見つかるもんも見つからねえ。今回の拉致に関係しているかどうかの可能性としては薄いかも知れんが、ひとつ気になる噂がある。以前クラブ・ジュエラの君江に聞いた話だが、ここ数年でホステスが突然辞める事案が相次いでいるというものだ』
「ホステスが辞める……?」
『それもこぞって人気のホステスで、ナンバーワンを張っていたような女たちだそうだ。銀座のみならず六本木や赤坂、上野あたりでまで同様のことが起こっているらしい』
「……どういうことだ?」
『辞めていった女たちに共通しているのは、何の前触れもなくある日突然店を辞めたいと言って、引退イベントはおろか顧客への挨拶回りもなしで姿を消しちまうということだ。普通なら考えられねえ引退の仕方といえる。君江の店でもそうやって辞めていったホステスがいたそうだが、都内だけでも同様のことが数多く起きているというのが気になる。その後の女たちの行方はまったく掴めず、自分の店を持つでもなけりゃ他店に移るでもなく、この業界では見かけなくなっちまうという奇妙な話だ。そこから考えられるのは……』
 僚一は二十年以上前に持ち上がった巨大遊興施設の話を二人に話して聞かせた。源次郎にのみ伝えていた例の秘密裏の計画である。当時はまだ子供だったゆえ、息子といえどもその件については特に話題にしないままだったのだ。
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