極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 悪どいやり方だが、ある意味納得させられる点も無くはない。これだけの大掛かりな街並みに立ち並ぶ茶屋の数からして、遊女もそれ相当な数が必要なはずである。先程見た花魁の女や他の遊女たちも似たような脅迫まがいのやり方で集められたということなのだろう。
 レイはひとまず皆の安全を第一に考えて、相手の条件に耳を貸すことにしたのだった。
「ふん――俺たちに選択肢はねえってわけだな? じゃあ仕方がねえ」
「おや、ご快諾いただけるわけですな?」
「それっきゃねえだろ? 刃向かや、さっきの強面の兄さん方に痛い目に遭わされるってんだろ? 拷問が待ってるか……あるいは始末されちまうってことも十分有り得そうじゃねえか。だったら素直に従うしかねえだろうが」
「物分かりのいいお方だ」
 レイが承諾の言葉を口にしたと同時に男はえらく機嫌の良さそうに態度を一転させ、これまでの凄みのオーラを見事に消し去っては人の好い善人の笑みを浮かべてみせた。まさに根っからの悪党そのものである。睨まれるよりも笑顔の方が実は恐ろしいという代名詞のようなものだ。
「――それで? 俺たちはいったいここで何をすりゃいいんだ。働くったって、どんなことをすりゃいいのかくらいは教えてもらわねえとな」
 居直ったようにレイが畳に座り込むと、男も少し間を開けてその対面に正座してみせた。
「よろしい。ではあなた方の仕事を説明しましょう。まず――そこのあなた!」
 男は角帯に挟んでいた扇子を取り出すと、レイの後方に座っていた紫月を指してみせた。
「最高にいい男だ。正直、この世のものとは思えないと言っても過言ではない。顔の造りといいスタイルといい群を抜いているが、それに加えて色気も充分だ。あなたには花魁になっていただきましょう」
 ニコニコとしながら、さも当然と言い放つ。
「花魁だ!? ――つか、俺、オトコだけど?」
 紫月が片眉を吊り上げると、男は『ほほほ』と楽しげに笑った。
「うちはね、遊女たちがいる通常の遊郭ももちろんだが、男色の遊郭もあるのだよ。目の前の大通りを挟んで、今我々がいる建物が男色専用の遊郭だ。対面はすべて遊女たちのいる遊郭というわけですよ」
 なるほど。それで左右対称のような街並みになっていたというわけか。
「正直なところ、遊女を集めるのにはそう苦労はしないのだがね。男色専門となるとこれが思いのほか難儀でね。我々はずっと、雅なこの世界に見合うような見目良い抜群の男花魁を欲していたわけだが――外界に出てスカウトしようにも、なかなかお眼鏡に叶う人材とは巡り会えなくてね。それが今日たまたま部下たちが街で君らを見掛けたというわけだ。この機会を逃してはならないと、少々荒っぽいやり方ではあったが、君らをここへお連れしたという経緯なのだよ」
 ということは、ここに連れて来られたのは本当に偶然で、前々から目をつけられていたというわけではなさそうである。つまり、敵はこちらの素性を知らないと見ていいだろう。紫月が裏の世界でも一目置かれる鐘崎組の姐であることも、冰が香港マフィアの周ファミリーであるという事実も――だ。
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