極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
490 / 1,212
三千世界に極道の華

13

しおりを挟む
「江戸そのもの――ね。花魁を抱えてるってことは、つまりあんたは数ある茶屋の中でも大手の主人ってわけか」
「おっしゃる通り。飲み込みが早くて助かりますな」
「何だってまたそんな大それた施設をこしらえたわけだ? 見たところ相当デカい企業が絡んでいるようだが――」
「まあ企業というのとは少々意味合いが違いますがね。組織――といった方が近いでしょうかな。私共とて数十年かけてようやくと実現に漕ぎ着けた一大プロジェクトでしたからな。まさに”夢”なのですよ」
「夢――ね? おたくらが企業だろうが組織だろうが興味はねえし、どんな夢を描こうが実現させようが、それ自体をどうこう言うつもりはねえがね。それよりも何故俺たちがここへ連れて来られたってことだ。しかもいきなり見ず知らずの連中に眠らされて、気が付いたらここに居たってのがな。俺たちには理由を説明してもらう権利くらいはあると思うがな」
「おっしゃる通りですな。失礼をしたことはお詫びする。ではご説明しよう。皆さんをここへお招きした理由ですが――是非ともここで働いていただきたいと思いましてな」
 言葉じりは丁寧だが、ニヤっと品のない企みめいた笑みは善人のものでは決してない。男はいよいよ本性を現わそうとしていた。
「言っておきますが、ここは外界とは隔離された特別な場所です。一度ここに入ったからにはもう二度と外へは出られませんぞ。皆さんには一生ここで働いていただくことになります」
 さも当然といったように下卑た笑いをみせる男を前に、皆は思いきり眉根を寄せさせられてしまった。
「おいおい、ふざけんのも大概にして欲しいね。強制的に連れて来られた上に二度と外へは出られねえだと? それじゃ拉致監禁じゃねえか。明らかに犯罪だな」
 レイが強気の啖呵を切るも、男の方は余裕の態度のまま鼻でせせら笑うだけだった。
「言ったでしょう、ここは外界とは完全に隔離された場所だと。皆さんが知っている外の常識は通用しないのですよ。つまり――犯罪もクソもないというわけだ」
 心なしか、だんだんと話し方も荒くなってくる。男が一語発するごとにじりじりと本性を剥き出していく様子に舌打ちしたい気分にさせられた。
「は――、まるで独裁者の言うこったな。時代錯誤もいいところだ。俺たちがおとなしく『はい、そうですか』と言いなりになると思っていやがるのか?」
「あなた方がどう思おうと、それこそ私の知ったことではない。ご承諾いただけないとおっしゃるのならば――」
 男がチラリと視線を動かすと、サッと部屋の扉が開いて、数人の屈強な男たちが木刀やら短刀らしきものを手に姿を現わした。その全員がすべて着物姿の浪人風情である。こんなところにまで江戸情緒を徹底したのは感心だが、やっていることは暴君そのものだ。
「言うことを聞かなきゃ暴力かよ――えらく勝手な話だな」
「どうとでも。だが、命は惜しいでしょう? ここで楯突いて痛い目を見るよりも、素直に従った方が身の為ですぞ? それに――働きに見合うだけの充分な報酬と何不自由ない贅沢な生活をお約束する。悪い話では決してないと思いますぞ」
 男は部下たちに下がるように目配せをすると、勝ち誇ったような不敵な笑みと共にそう言った。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...