極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 その後、ようやくと足取りらしきものが分かったのは運転手に連絡がついた時だった。彼は地下の駐車場で荷物を預かると、紫月らがお茶をしに向かったホテルへと先回りしていたらしい。
「皆様は老板たちとのお待ち合わせのお時間までいつものホテルのラウンジにいらっしゃるとのことでしたので、私はホテルの駐車場で待機させていただいておりました。皆様からは一緒にお茶をとお誘いいただいておったのですが……こんなことならお言葉に甘えるべきでした!」
 運転手は遠慮してラウンジに行かなかったことを後悔していると言った。
「今ラウンジに来てみましたが皆様のお姿は見当たりません! どうやらこちらにもいらしていないようです!」
 紫月も冰もここでは常連である。黒服たちもよくよく二人の顔は見知っていたが、今日は彼らは来ていないという。
「ということは……その途中で何かあったということか」
 紫月らは歩いてホテルへ向かったということだったから、途中で気が変わってまたどこかの店にでも寄って買い物をしているのかも知れない。
「申し訳ございません! 私がきちんと車でお送りしていれば……」
 運転手は蒼白となっていたが、彼に責任はないだろう。
「案ずるな。お前のせいじゃねえ」
 周は彼を宥めると、すぐさま汐留にいる側近の李へと連絡を入れた。
「李か! 俺は今、冰たちと待ち合わせているホテルなんだが。すまねえがすぐに合流してくれねえか?」
「は、どうかなされたので?」
 主人の声音に焦りの色を感じ取ったわけか、李はすぐさま機敏にそう訊き返した。
「まだどうと決まったわけじゃねえんだが、ヤツら全員と連絡が取れねえんだ」
「かしこまりました。ではGPSで現在地を調べます」
「ああ、頼む」
 少々お待ちくださいと言われ、通話は繋げたままで一分ほど待つ。だが、今度は李の方が焦った声で応答を返してきた。
「老板、GPSが繋がりません。スマートフォンはもちろんですが、冰さんの腕時計と紫月さんのピアスの方も反応がありません!」
 その報告に、周と鐘崎は険しく眉根を寄せて互いを見合った。
「やはり何かあったということか」
「クソ……ッ! なんてこった! 頼みの源さんは当該者だ」
 いつもならばこういった緊急時には周の側近である李と劉、それに鐘崎組からは源次郎といった精鋭が頼りになる存在なわけだが、その源次郎自身が今回は向こう側ということになる。
「だがまだ李と劉がいる! とにかく冰たちの足取りを追おう。運転手の話では買い物を積み込んだ地下駐車場までは無事だったということだから、問題はそこから先だ。例のラウンジに歩きで向かう途中に何か起こったと考えて、奴らが通りそうな道の防犯カメラを片っ端から当たるしかねえ!」
「それじゃ清水に言って組の若い者らを至急回してもらう!」
 こういうときは人海戦術でいくしかない。

 時刻は夕方の六時を回ろうとしている。

 街は勤め帰りの人々で賑わいを増す時間帯だ。同僚たちと楽しげに仕事後の打ち上げに行く者、幸せそうな恋人たち、行き交う人々の笑顔とは裏腹に、周と鐘崎の頭上に暗雲が立ち込めようとしていた。
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