極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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周大人ジォウ ターレン、この度は無理を言ってすまなかったな。お陰で助かった」
「――いえ、そのような呼ばれ方はさすがに恐縮です。周と気軽に呼んでくださったら幸いだ。それに、大口のご注文をいただいてこちらの方が礼を申し上げねば」
「そうか。ではお言葉に甘えて今後は”周”とフランクに呼ばせてもらうぞ」
「ええ、そうしてください」
「お前さんも気を遣わんでくれ。丹羽にわ――と、それこそ気軽に呼んでくれたら嬉しい」
「恐縮です。――ではお言葉に甘えさせてもらいます」
 ここは日比谷にある高級ホテルのレストランの一室である。広大な公園を見渡せる最上階のプライベートな空間でランチを共にしながら話しているのは周焔ジォウ イェン丹羽修司にわ しゅうじという男である。丹羽は若くして警視庁捜査一課で課長を務める精鋭で、先の宝飾店の事件の際にも顔を合わせた男である。
「周、今回は急な要望だったにもかかわらず機材の輸入に都合をつけてもらえて本当に助かった。感謝する」
「お役に立てて何よりです」
 他人行儀とも親しげともつかないそんな会話をしている二人を交互に見やりながら、鐘崎遼二かねさき りょうじは満足そうな笑みと共にランチのステーキに舌鼓を打っていた。
 周と丹羽とは例の宝飾店の事件の際に初めて出会ったわけなのでいささか他人行儀だが、鐘崎は丹羽が捜査一課長に就任するずっと以前からの知り合いである。年齢的には丹羽の方が十ばかり上だが、二人は父親同士が懇意にしていたこともあり、子供の頃からの付き合いである。また、互いの実力を認め合っている仲でもあるので、年齢を超えて遠慮のない間柄なのだ。そんな丹羽から、とある機材の調達の目処がつかずに困っているとの相談を受けて、それならばと鐘崎が周の商社を紹介したわけだ。丹羽はたいへん助かったと喜び、今日は礼かたがたホテルでのランチの誘いを受けた――と、まあそんなわけである。
「本当だったらキミらの奥方たちともご一緒できればと思っていたんだが――」
 そうなのだ。丹羽からは紫月と冰も是非にと誘われたのだが、あいにく都合がつかずに、周と鐘崎の二人だけが呼ばれることになったのである。
「実は今、香港から友人が遊びに来ていてな。お前さんも名前くらいは知っているかも知れんが――ファッションモデルをしているレイ・ヒイラギという御仁だ。彼のヘアメイクを担当している息子の倫周と二人で一ヶ月のロングバカンスだそうで、今日はうちの嫁らが銀座を案内しているよ」
 鐘崎がそんな説明をする。
「レイ・ヒイラギ――ああ、知っているとも。有名なモデルだな。銀座というと……買い物目当てか?」
「ああ、そうらしい。レイはうちの親父たちとほぼ同世代だが、実年齢よりもかなり若く見えるからな。実際、気も若い。紫月や冰とも何度か顔を合わせているんで、最近ではすっかりいい友達付き合いだ」
「ではこの後はお前らとも合流するって算段だな? 時間は大丈夫か?」
「心配には及ばねえ。付き添いでうちの源さんと若いのが一緒だし、たまには亭主抜きで羽を伸ばすのも悪くなかろう」
 とはいえ、鐘崎と周が嫁たちを護衛もつけずに出歩かせるはずもなく、今回は周が運転手と車を出し、鐘崎は組から源次郎と春日野を付き添いとして同行させたというわけだ。
「そうか。ご令室方にはまたいずれゆっくりご挨拶させてもらうとしよう。よろしく伝えてくれ」
「ああ」
 食後のコーヒーを楽しみながら三人でうなずき合う。
「それとはまた別の話だが――鐘崎、それに周。お前さんら二人には近い内にまた助力を願うかも知れん」
 丹羽が少々生真面目な表情でそんなことを口にしたので、鐘崎はニッと企みめいた視線で彼をみやった。
「何だ、またややこしいヤマでも抱えてんのか? 今はまだ言えねえ案件か」
「ああ――今のところはな。だが必ずお前らの力が必要になる」
 丹羽もまた、不敵な笑みでそう返したのだった。
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