極道恋事情

一園木蓮

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漆黒の記憶

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 周とて鐘崎の言いたいことはよく分かっているつもりだ。心は満たされても夫婦という意味で情を重ねられないのは辛かろうと、言葉にこそしないが鐘崎がその苦悩を案じてくれているのが痛いほど分かるからだ。
「ありがとうな、カネ。だが俺はこう見えて気は長え方だ。あと十年もすれば冰の気持ちも大人へと成長するだろう。それまではガキのあいつと過ごせる時間を楽しむとするさ。それに、あっちの方ならてめえでいくらでも処理できる。無理強いして冰に恐怖心を植え付けるくれえなら、そのくらいどうってことねえ」
 つまり欲のことなら自慰で事足りるというのだろう。しかも冰の気持ちがこのまま大人へと成長するまで待とうというのだ。
 言葉の上では簡単に思えても、実際は気の遠くなるような年月を独りで乗り越えようとしている――。
「……氷川、お前」
 鐘崎は分かってはいても切なくなる気持ちが苦しかった。
「俺なら大丈夫だ。そんなことまで考えてくれるお前の気持ちが俺には有り難くて仕方ねえ。いい友を持ったと心の底からそう思うぜ」
 ニッと口角を上げて不敵に微笑んでみせる姿に胸の奥が熱くなる。鐘崎もまた心からそんな友を誇りに思うのだった。



◇    ◇    ◇



 それから数日後――。
 周が接待でクラブ・フォレストの里恵子の店を訪れた夜のことだった。クライアントを送り出した帰り際、周はママである里恵子に呼び止められてVIP専用の個室へと案内された。
「冰ちゃんの様子はどう? まだ何も思い出せないのかしら……」
 里恵子としても心から心配していたのだ。
「まあな。だが元気にしている。俺にも家の連中にも懐いてくれているしな」
「そう……。だったらいいんだけれど。瑛二もとても心配しているのよ」
「すまねえな。お前らにまで気を遣わせちまって」
「いいえ、そんなことは全然! 冰ちゃんは私たちにとっても大切な友人ですもの」
 里恵子は言いづらそうにしながらも、思い切ったように口を開いた。
「ねえ周さん……。怒らないで聞いてくださる? 瑛二とも相談して……お節介なことだとは重々承知だけれど……もしもあなたが必要ならば女の子をご紹介……というか手配することは可能よ。口も固くてお仕事としてひと時のお相手をできる子をご紹介できるわ」
 驚きつつも里恵子の気持ちはよくよく理解できた。男性としての自分を心配してくれているのだ。
 言いにくいことながら敢えてそんな提案をくれる彼女に感謝こそすれ怒る気持ちなどには到底なれなかった。
「お前さんにまでそんな気を回させちまってすまねえ。だが俺のことなら心配無用だ」
「……そうよね。あなたならその気になれば引き手数多なのは分かっているわ。でもあなたにとって冰ちゃんは何より大事な人だし、彼を裏切るようなことは絶対にできないと思うの。だからせめてお商売として一時でも気が休まればと思ってしまったの。それなら誰も傷つけずに済むんじゃないかと思って……」
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