極道恋事情

一園木蓮

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漆黒の記憶

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「あの……僕はお兄さんたちのことも知ってたの……かな」
 おそらくはこの紫月や鐘崎とも顔を合わせたことがあるのかと思ったようで、おずおずとしながらも冰は周を見上げた。
「ああ、もちろんだ。週末にはよくこいつらの家に遊びに行ったりしてたぞ?」
「……そうなんだ。僕、覚えてなくて……ごめんなさい」
 わずか切なげに瞳を細めながら申し訳なさそうな顔をする。そんな様子に紫月が冰の手を取りながら明るく笑ってみせた。
「謝る必要なんかねえ。俺たちは冰君のことが大好きだし冰君も俺たちのことを好きになってくれたら嬉しいぜ! 今からまたダチになりゃいいんだ。だからこれからもよろしくな、冰君!」
 ニカッと白い歯を見せながら親指を立ててガッツポーズをしてみせる。その笑顔があまりにも爽やかで、それは冰にとっても不安を拭い去り、頼もしい気持ちにさせてくれるものだった。
「ありがとう……あの、紫月のお兄さん」
 見た目は変わっていないが、今の冰は九歳の少年という意識でいるわけだから自然と出てくる『お兄さん』という呼び方に頬がゆるむ。
「紫月君でいいぜ! 俺も冰君って呼ばせてもらうからさ!」
「いいの……?」
「もちろんさ!」
 紫月はそう言うが、目上の人に対して”君付け”でいいものかといったようにチラリと周を見やる。その視線からは周に対する絶対的な信頼感を抱いていることがよくよく分かるようで、鐘崎も紫月もホッと安堵するのだった。
「だったら俺のことは遼二君でいいぞ? まあ――俺の方は”冰”と呼び捨てでいいな?」
 普段はあまり感情の起伏を見せない鐘崎までがニッコリと笑顔を見せながら言う。
「おいおい遼! ンな慣れねえツラで笑ったりしたら、逆に怖えって。冰君がビビっちまうじゃねえかー」
 紫月がツッコミを入れると、それが可笑しかったのか、冰の緊張も一気に解けたようだ。まるで『お兄さんたち面白い!』というようにコロコロと笑う。
「冰君、こいつって見た目はイカついけどホントはやさしいヤツだからさ。怖がらねえで仲良くしてやってな?」
 紫月がウィンクを飛ばしながら微笑むと、冰は元気よくうなずいてみせた。
「はい! 紫月君と遼二君、よろしくお願いします」
 ペコリと頭を下げる仕草が本当に小学生の子供のようで、鐘崎も紫月もその可愛らしさに自然と笑みを誘われてしまった。
「ところで冰、今日は何をして過ごしてたんだ?」
 周が訊くと、冰はうれしそうに元気な声を出した。
「うん! 朝ご飯食べた後に病院の鄧先生と少しお話をしてね。その後はディーラーの練習をしてたの。それがね、今までは何回やってもできなかった技ができるようになったんだ! 小さな玉を好きな数字の場所へはめられるようにするやつ!」
「ほう? もしかして今朝倉庫から引っ張り出してきた例のルーレットの台でやってみたのか?」
「うん、そう! お兄さんが僕の為にって倉庫を探してくれたから。だから練習してみたんだ」
「早速練習したってわけか。お前はホントに勤勉なんだな。えらいぞ!」
 周が掛ける言葉も小さな子供に対するやさしさが垣間見えるようで、鐘崎と紫月も自然と温かい気持ちにさせられるのだった。
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