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漆黒の記憶
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今は黄老人が他界していることまでは言う必要はないだろう。鏡の中の自分の姿を理解するだけでも精一杯であろうからだ。
「えっと……僕? 本当にこれが僕なの?」
「ああ」
「僕はどうして日本へ来たの? じいちゃんを一人置いて……どうして」
「じいさんはな、香港で幸せに暮らしている。お前が俺と住むことも喜んでくれたんだぜ」
「じいちゃんが……。じゃあもしかして僕がお兄さんと一緒にいたいからって我が侭を言ったのかな……。僕ね、お兄さんに助けてもらった時から何度ももう一度会いたいってじいちゃんに頼んでたから」
「そんなに俺に会いたかったのか?」
「うん……。お兄さんの住んでるお家に連れてってって毎日そう言ってた」
「じいさんは何と答えた?」
「お兄さんは大人でお仕事もあって忙しい人だから邪魔しちゃいけないんだって。じゃあいつ会えるのって聞いたら、僕がいい子にしてればいつかきっと会えるよって言った。いつか僕が大きくなって、立派な大人になったらお兄さんが会いに来てくれるかも知れないって。だから今は学校の勉強とディーラーの練習をしっかりやって、お兄さんに恥ずかしくない人間になりなさいって言われてたんだ」
だからきっと大人になった自分が漆黒のお兄さんに会いに行って一緒に暮らしたいと言い張ったのかも知れないと冰はそう思ったようだった。つまり大人であるという今の姿を認める意識が持てているということになる。
「じゃあ僕は大人になるまでのことをすっかり忘れちゃったっていうこと……なんだね。いい子にしていればいつか思い出せる時がくるのかな……」
「冰……。ああ。ああ、必ず思い出せる。だが無理はしなくていい。俺の側で何も心配せずに、今のお前のままでゆっくりと過ごしていればいつか思い出せる日がくる」
「お兄さん……やさしいんだね。でも僕……お兄さんと一緒に暮らしてたことも忘れちゃってる。迷惑じゃないのかな……こんな僕」
「迷惑なもんか! 俺はな、お前とこれまで通り一緒にいられればそれだけで充分だ。ここ最近のことなんぞ忘れていようがまったく構わねえ。今のお前のままでいいんだ。だから一人で悩むことだけはするな。どんな小さなことでもいい、思ったことや感じたことを全部俺に教えてくれ。一緒にがんばっていこうな」
「お兄さん……ありがと。ごめんね、僕……きっと思い出せるようにがんばるから」
「ああ。ああ、そうしたら、全部思い出せたら二人で一緒に黄のじいさんに会いに行こう。それまで日本で、俺の側でがんばれるな?」
「うん、うん……!」
「よーし、いい子だ。さすが黄のじいさんが育てただけある」
周は持てるすべての愛情を注ぐように思いきりやさしく冰の頭を撫でながら微笑んだ。
「えっと……僕? 本当にこれが僕なの?」
「ああ」
「僕はどうして日本へ来たの? じいちゃんを一人置いて……どうして」
「じいさんはな、香港で幸せに暮らしている。お前が俺と住むことも喜んでくれたんだぜ」
「じいちゃんが……。じゃあもしかして僕がお兄さんと一緒にいたいからって我が侭を言ったのかな……。僕ね、お兄さんに助けてもらった時から何度ももう一度会いたいってじいちゃんに頼んでたから」
「そんなに俺に会いたかったのか?」
「うん……。お兄さんの住んでるお家に連れてってって毎日そう言ってた」
「じいさんは何と答えた?」
「お兄さんは大人でお仕事もあって忙しい人だから邪魔しちゃいけないんだって。じゃあいつ会えるのって聞いたら、僕がいい子にしてればいつかきっと会えるよって言った。いつか僕が大きくなって、立派な大人になったらお兄さんが会いに来てくれるかも知れないって。だから今は学校の勉強とディーラーの練習をしっかりやって、お兄さんに恥ずかしくない人間になりなさいって言われてたんだ」
だからきっと大人になった自分が漆黒のお兄さんに会いに行って一緒に暮らしたいと言い張ったのかも知れないと冰はそう思ったようだった。つまり大人であるという今の姿を認める意識が持てているということになる。
「じゃあ僕は大人になるまでのことをすっかり忘れちゃったっていうこと……なんだね。いい子にしていればいつか思い出せる時がくるのかな……」
「冰……。ああ。ああ、必ず思い出せる。だが無理はしなくていい。俺の側で何も心配せずに、今のお前のままでゆっくりと過ごしていればいつか思い出せる日がくる」
「お兄さん……やさしいんだね。でも僕……お兄さんと一緒に暮らしてたことも忘れちゃってる。迷惑じゃないのかな……こんな僕」
「迷惑なもんか! 俺はな、お前とこれまで通り一緒にいられればそれだけで充分だ。ここ最近のことなんぞ忘れていようがまったく構わねえ。今のお前のままでいいんだ。だから一人で悩むことだけはするな。どんな小さなことでもいい、思ったことや感じたことを全部俺に教えてくれ。一緒にがんばっていこうな」
「お兄さん……ありがと。ごめんね、僕……きっと思い出せるようにがんばるから」
「ああ。ああ、そうしたら、全部思い出せたら二人で一緒に黄のじいさんに会いに行こう。それまで日本で、俺の側でがんばれるな?」
「うん、うん……!」
「よーし、いい子だ。さすが黄のじいさんが育てただけある」
周は持てるすべての愛情を注ぐように思いきりやさしく冰の頭を撫でながら微笑んだ。
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