極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
440 / 1,212
漆黒の記憶

しおりを挟む
焔老板イェン ラァオバン、お仕事中に失礼致します。少々お時間よろしいでしょうか」
 日暮れ前、そろそろ一日の仕事を切り上げるかというその時間に周の社長室を訪ねて来たのはトウという男だった。
 彼は周の主治医として邸に常駐している医師である。周が幼い頃から香港のファミリー付きの医師として勤めていてくれたのだが、日本で起業することになった際には共に付いて来てくれて、以来ずっと周や李、それに真田ら家令の者たちも含めて体調を管理してくれている腕のいい男だった。
「どうした。もしかして冰の意識が戻ったのか?」
「はい。先程申し上げた通り、お怪我自体は軽く、かすり傷程度で心配することはございませんでした。ですが……それより少し重要なことが起こりまして」
 鄧の言葉に、周はクイと眉間の皺を深くした。

 事の起こりは今日の昼間のことだ。
 打ち合わせで日本橋にあるクライアントを訪れた後、周と冰はいつものようにランチを共にした。午後からは周の抱えている事務処理が少しあるだけで冰の時間が空いたので、彼の希望でそのまま銀座界隈で買い物をしたいということになった。
 周は社に戻らなければならなかったので、代わりに真田を呼んで二人で買い物に行かせることにしたのだ。どうやらバレンタインのギフトの下見をしたかったらしく、冰にとっても周と一緒ではない方が都合が良かったらしい。
 李や劉は社の仕事があるので、それならばと真田が車で迎えがてら運転手を伴って銀座まで出向き、冰と合流したという経緯である。
 事件は一通り店を見て回った後、ギフトの目星もついたようで、そろそろ帰ろうかという時に起こった。
 車が待っている裏通りまで真田と冰が肩を並べて歩いている時だった。この日は朝から結構な風が吹いていて、まだ春一番の時期には早いですよねなどとうららかな話をしていたちょうどその時だった。強風に煽られて、どこからか金属製の傘立てのような物が頭上から落ちてきたのである。ビルの外階段の踊り場あたりに置かれていたもののようだが、かなり古く、ビスなどがゆるんでいて飛ばされたと思われる。真田を直撃しそうになり、それに気付いた冰が咄嗟に庇って怪我を負ったというものだった。
 幸い運転手からも目視できる距離だったので、すぐさま車に担ぎ込んで汐留へ戻り、主治医の鄧が手当てに当たった。怪我自体はかすり傷程度で、骨折もなく、頭を打ったなどの重傷には至らなかったものの、冰は現場で気を失ったまま目を覚さなかった為、医務室のベッドで鄧がつききりで様子を見ていたわけだ。
「――冰の容態が良くねえのか?」
 周はすぐに仕事の手をとめると、焦り顔でそう訊いた。初見では怪我自体は軽いものだと聞いていたので、実のところそんなに心配はしていなかったというのもある。
「お身体的にはご容態は極めて良好といえるのですが……」
 難しい鄧の表情に眉間の皺が更に深くなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...