397 / 1,212
チェインジング・ダーリン
1
しおりを挟む
「鐘崎様……! お待ち申し上げておりました!」
クリスマスも間近という師走の初め、それは――とある週末のことだった。
有名宝飾店の新店舗が丸の内の一等地に開店するとの招待状が届き、鐘崎組若頭の鐘崎遼二が伴侶の紫月と共に出向いた会場でのことである。
支配人の男が少々慌てた素振りで出迎えに飛んで来たのに驚かされたのも束の間、オープニングセレモニーという華やかな日には相応しくない相談を受けることになろうとは、さすがに想像できずにいた。
「おいおい、えれえ歓迎ぶりだな。正直言ってウチはそんな大層な上客ってわけでもねえのによぉ」
紫月が暢気な口ぶりで、隣に立つ亭主の鐘崎に囁いている。今日は開店前日ということで、普段から付き合いの厚い上客のみが招待されての内覧会なのだ。
鐘崎の組ではそうしょっちゅう宝飾品を購入しているわけではないのだが、以前に警護の依頼を受けたこともあり、また顧客という点でもそれなりの付き合いはあるので、こうして招待を受けたというわけだ。また、汐留の周焔の元にも同じように招待状が届いたとのことで、いつものように四人で待ち合わせてセレモニーに出席することとなっていた。
「鐘崎様、実は至急ご相談したいことがございまして……」
支配人は別店舗時代からの顔見知りの男で、今回の新店舗開店に当たってこの店へとやって来たそうだから、二人にとっては馴染みである。その彼がひどく慌てた様子でそんなことを言うものだから、何事かと首を傾げさせられてしまった。
「どうかなさったんですか? 随分とお慌てのようですが」
「ここではちょっと……。事務所の方でお話申し上げたいのですが」
支配人が困惑顔で言うので、鐘崎は紫月をこの場に残して話を聞くことにした。というのも、店のロビーで周らと待ち合わせていたからだ。
「んじゃ、俺はあいつらと落ち合ってから直接会場の方で待ってっから」
「分かった。じゃあ後でな」
事務所に着くと支配人はスタッフたちにさえ極秘といった調子で、鐘崎を自分専用の個室へと案内した。
「それで、相談というのは――」
鐘崎が訊くと、支配人の男はすがるようにして懐から一枚の紙を取り出した。
「実は……つい先程このようなものがファックスで送られて参りまして……」
扉越しにさえ聞かれまいとしているのか、小声で注意を払いながらそれを鐘崎へと手渡した。
「――!? これは」
文面はごく短いものだが、そこには一目で脅迫と受け取れる内容が記されてあった。
開店おめでとう
今日の内覧会を血で染め上げて祝ってやるから楽しみにしていろ
今時わざわざファックスで送ってよこしたということは、送信者などの情報を突き止めにくくする為だろうか。案の定、発信元は近くのコンビニエンスストアとなっていた。
クリスマスも間近という師走の初め、それは――とある週末のことだった。
有名宝飾店の新店舗が丸の内の一等地に開店するとの招待状が届き、鐘崎組若頭の鐘崎遼二が伴侶の紫月と共に出向いた会場でのことである。
支配人の男が少々慌てた素振りで出迎えに飛んで来たのに驚かされたのも束の間、オープニングセレモニーという華やかな日には相応しくない相談を受けることになろうとは、さすがに想像できずにいた。
「おいおい、えれえ歓迎ぶりだな。正直言ってウチはそんな大層な上客ってわけでもねえのによぉ」
紫月が暢気な口ぶりで、隣に立つ亭主の鐘崎に囁いている。今日は開店前日ということで、普段から付き合いの厚い上客のみが招待されての内覧会なのだ。
鐘崎の組ではそうしょっちゅう宝飾品を購入しているわけではないのだが、以前に警護の依頼を受けたこともあり、また顧客という点でもそれなりの付き合いはあるので、こうして招待を受けたというわけだ。また、汐留の周焔の元にも同じように招待状が届いたとのことで、いつものように四人で待ち合わせてセレモニーに出席することとなっていた。
「鐘崎様、実は至急ご相談したいことがございまして……」
支配人は別店舗時代からの顔見知りの男で、今回の新店舗開店に当たってこの店へとやって来たそうだから、二人にとっては馴染みである。その彼がひどく慌てた様子でそんなことを言うものだから、何事かと首を傾げさせられてしまった。
「どうかなさったんですか? 随分とお慌てのようですが」
「ここではちょっと……。事務所の方でお話申し上げたいのですが」
支配人が困惑顔で言うので、鐘崎は紫月をこの場に残して話を聞くことにした。というのも、店のロビーで周らと待ち合わせていたからだ。
「んじゃ、俺はあいつらと落ち合ってから直接会場の方で待ってっから」
「分かった。じゃあ後でな」
事務所に着くと支配人はスタッフたちにさえ極秘といった調子で、鐘崎を自分専用の個室へと案内した。
「それで、相談というのは――」
鐘崎が訊くと、支配人の男はすがるようにして懐から一枚の紙を取り出した。
「実は……つい先程このようなものがファックスで送られて参りまして……」
扉越しにさえ聞かれまいとしているのか、小声で注意を払いながらそれを鐘崎へと手渡した。
「――!? これは」
文面はごく短いものだが、そこには一目で脅迫と受け取れる内容が記されてあった。
開店おめでとう
今日の内覧会を血で染め上げて祝ってやるから楽しみにしていろ
今時わざわざファックスで送ってよこしたということは、送信者などの情報を突き止めにくくする為だろうか。案の定、発信元は近くのコンビニエンスストアとなっていた。
13
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる