極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
393 / 1,212
若頭の見た夢

しおりを挟む
 その朝、普段のような食欲はなかった。
 いつもと同じように組の若い衆らと食卓を囲んでいても、いつになく箸が進まない。そんな様子を心配そうに見つめながら、隣にいた伴侶の紫月が眉をひそめていた。鐘崎組の若頭、鐘崎遼二にとってこの世で最も愛するかけがえのない夫――もとい妻である。
「どした、遼? どっか具合でも悪いんか?」
 普段は食欲旺盛な亭主が今朝は口数も少なく食も進んでいないのが気になって顔を覗き込んだのだ。
「ん……? ああ、いや……体調が悪いわけじゃねえ。むしろ至って健康といえるんだが……」
 実に食欲よりも別の欲の方が顔を出しそうになっていて、目の前の膳が目に入らなかっただけだ――などとは、さすがに組の若い衆らがいる前で暴露できるわけもなし。鐘崎は苦笑ながらも無理矢理膳を掻き込むと、
「実はな、少々変わった夢を見ちまって……」
 なんとも歯切れの悪い笑みを浮かべながらもタジタジと頭を掻いてみせた。



◇    ◇    ◇



「――で? お前の見たヘンな夢ってどんなんだったんだよ」
 食事が済み、事務所の机でパソコンを立ち上げながら紫月が訊く。鐘崎は目を通していた新聞を置くと、コーヒーを口に運びながら昨夜見た夢について語り出した。
「それがな――俺らが高校生になってた話でな」
「ほえー、わりとリアルつか普通な世界の話じゃん! 俺りゃー、またもっと突飛もねえやつかと思った。そんで、どんなんだったんだ?」
「俺と氷川は不良、お前と冰は生徒会の役員で風紀も担当してたっていう夢だったんだ」
「へえ? なんか面白そうじゃね? それでそれで?」
 紫月が興味津々といったふうに身を乗り出してくる。
「そういや粟津のヤツも出てきたな。ヤツは生徒会長だった」
「ほええ? んじゃ、俺は俺は? 副会長とかか?」
「いや、お前は風紀担当だったな。朝の校門にお前らが腕章して立っててよ。登校してくる俺らを呼び止めるんだ」
「ええー、マジでか? 俺、かっけー役周りじゃん! そんで、お前ら不良を規則違反だーっつって捕まえるとか?」
 ワクワクと瞳を輝かせながら甘いクッキー缶を開けている。
「ん、旨え! これ、昨日冰君がくれたんだけどマジいける! あ、お前のコーヒー一口ちょーだい」
「ん? ああ、ほら」
 鐘崎はカップを差し出しながら夢の続きを話して聞かせた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...