極道恋事情

一園木蓮

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極道の姐

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 周の社は商社だから、世界各国からいろいろなものを輸入している。フルーツもその内のひとつで、銀座界隈のみならず全国的に有名どころの老舗果物店とも取り引きがあるわけだった。今回の開店にあたって、里恵子がフルーツの仕入れ先に選んだのがその果物店だったというわけだ。
「冰君、ここの果物はマジ美味いぞ! 例の俺の大好物のラウンジのケーキにもその店の果物が使われてんだ」
「そうなんですか! イチゴショートに乗ってるフルーツとか、すっごく新鮮で美味しいですもんね!」
「そそ! でっけえし、じゅわーっと甘くてさぁ! もういっくらでも入っちゃうって感じだよな!」
 紫月と冰が早速にフルーツ談義で盛り上がっている。そこへ里恵子がおしぼりを手渡しながら割って入った。
「そうだわ、冰ちゃん! 蘭州のご実家に帰った静雨さんだけれどね、彼女も元気にしている様子よ。冰ちゃんに会うことがあったらよろしく伝えてくれって頼まれていたの!」
「静雨さんが! そうですか!」
「なんでもね、彼女が実家に帰った時には、ご両親だけじゃお店を切り盛りするのが大変になってきたからっていうことで、若い職人さんをお雇いになっていらしたらしいの。彼女のおうち、蘭州麺のお店を営んでいらっしゃるのよ。それで……その職人の方がとっても素敵な方らしくて、毎日が楽しいって静雨さん、そう言っていたわ」
「職人さんって男の人なんですか?」
「ええ、そうみたい! これはアタシの想像だけど、とってもいい雰囲気よ!」
 里恵子がチャーミングな仕草でウィンクをしてみせる。
「そうでしたか! 静雨さん、お元気で楽しくお過ごしなんですね。良かった……!」
 冰も心からホッとしたようで、とても嬉しそうだ。そんな様子を見ていた周も紫月も鐘崎も、穏やかな笑顔に包まれたのだった。
「よし、それじゃ乾杯といくか! 発声は君江がやってくれ」
 僚一に指名されて、君江ママがグラスを手に厳かな面持ちで立ち上がった。
「それでは僭越ながら。クラブ・フォレストと里恵子ママのご健勝ご発展を祈念して乾杯!」
「乾杯ー!」
 賑やかな掛け声と共にグラスが重なり合い、シャンデリアの光に照らされてキラキラと輝く。拍手喝采の中、極上のシャンパンに舌鼓を打った一同だった。
 思えば、この里恵子の店の開店にあたっての後見云々から始まった騒動であったが、紆余曲折を経て無事にオープンに漕ぎ着けたわけである。極道の男たちには災難も降りかかったひと騒動であったわけだが、それも大いなる気概を持った姐たちの活躍で乗り切ることができ、結果は大団円といえよう。
「来週には本物のもみの木が届くことになっているのよ。クリスマス・フォレストと題してイベントも予定しているから、皆さん是非遊びにいらしてね!」
「うっは! そいつは楽しみだ! だったらさ、前に張さんから貰った例の着ぐるみでも着て参戦すっか! 森の中を散歩できるなんて最高じゃね? なぁ、冰君」
「わぁ! いいですね! まさにフォレストですね!」
 紫月と冰が瞳を輝かせる傍らで、周と鐘崎の旦那組はさすがにタジタジである。
「おいおい、着ぐるみもいいが、今度はお前らだけで着てくれよ?」
 案外大真面目に蒼くなっている周にドッと笑いが湧き起こる。
「今度はって……まさか周焔さんと遼二も着たことがあるの?」
「まあ! 着ぐるみを? あなたたちが?」
 クエスチョンマークが顔周りでクルクル回っているかのような表情で君江ママと里恵子が興味津々、身を乗り出している。周はまさかの自爆に片眉を吊り上げての硬直状態だ。つい口車に乗せられてしまい、冷や汗を拭っている彼を目の当たりにできるなどおおよそ滅多にあるものではない。
「ま、まあな。マカオの張が等身大の着ぐるみを贈ってきたんで成り行きで一度は着たんだが、ありゃ一生の不覚だった」
「ええー! 見たかったわー! すっごいレアじゃない、それって!」
「おいおい、勘弁してくれよ」
 周がソファに深くのけぞりながら『参った!』と額を覆う。そんな仕草もそれこそ劇的にレアで、追い詰められた野生の王者が手負に焦るそんな様子もある意味色気が匂い立つようだとママたちは大はしゃぎだ。
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