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極道の姐
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その夜、冰はようやくと落ち着きを取り戻した現実の中、愛する周と水入らずの時を過ごしていた。
周らが解放されてから少しばかりは休息を取ったものの、今回の騒動解決に惜しみない助力をしてくれた張敏やその友人であるスラム街を仕切るボスの男らに礼の挨拶回りなどで目まぐるしくしていた為だ。
裏の世界では掛けてもらった温情に対して可能な限り早急に礼を尽くすのが暗黙の掟である。いかに拉致監禁の直後とはいえ、特に怪我などで動けないというわけではなかった為、身体を休めるよりもまず先に礼を尽くさねばならない。そんなこんなで一日中駆けずり回っていて、ようやくホッと一息つけたのが今というわけだった。
「白龍、本当にお疲れ様。今夜はゆっくり休んで!」
拉致されてからこの方、丸一日以上食事も水も与えられずに簀巻きにされていたわけである。当然体力も消耗しているだろうし、精神的にも疲れているはずである。今はとにかく何を置いても充分な休息を取って欲しいと、冰はただただそれだけを願っていたのだ。
だが、周の方は存外元気な様子で普段と何ら変わりはなさそうである。食事もたっぷりと摂ったし、ゆっくりと風呂も満喫したので、すっかり元通りの様子だった。
「挨拶回りは済んだし、明日は一日中ゴロゴロしてられるんだ。ゆっくりするのは明日でいい」
最上級のスイートルームの大きなソファに深く背を預けながら、まるで姫抱きするようにすっぽりと腕の中へと抱え込まれて、冰はみるみると頬を朱に染め上げた。
「白……白龍……! あの……疲れてないの?」
「ああ」
「だ、あの……だってさ、ずっと拘束されてたんだし、事件が解決してからも挨拶回りで走り回ってたし。それに昨夜はよく休めなかったんじゃないかと思って」
「いや、逆に睡眠薬のお陰で普段より熟睡できたくれえだ」
「ええー……! またそんなこと言って」
心配を掛けまいと、わざと元気な素振りを見せてくれているのかも知れないと思うと、冰はそれの方が心配なのだ。そんな思いが顔に表れていたのか、周は抱きかかえた彼の額に軽く口づけながら笑った。
「心配には及ばねえさ。実際、俺も兄貴も、それにカネのヤツもだが、ああいった状況には慣れてるからな」
「慣れてるって……監禁されたりしたこととか……前にもあったってこと?」
「そうじゃねえが、そういった状況になった時の為の訓練はガキの頃から受けさせられてたからな」
「訓練?」
冰はすっかり驚いてしまい、元々大きな瞳を更に大きく見開いてしまった。
「毎年夏休みと冬休みの二回だ、俺たちは実戦を兼ねた修行に行かされてな。傭兵上がりの厳しい師匠の元で地獄の訓練ってヤツをやらされて育ったんだ」
「じ、実戦?」
「ああ。物心ついた時にはもう夏休みと冬休みが嫌で嫌で仕方なかったくれえだからな。この世から長期休暇なんてモンは無くなっちまえばいいとどれほど思ったことか」
周は懐かしそうに笑うが、冰にしてみれば驚きという他ない。辛かったという周には悪いが、まさに異次元の世界に興味津々といった表情で身を乗り出してしまった。
周らが解放されてから少しばかりは休息を取ったものの、今回の騒動解決に惜しみない助力をしてくれた張敏やその友人であるスラム街を仕切るボスの男らに礼の挨拶回りなどで目まぐるしくしていた為だ。
裏の世界では掛けてもらった温情に対して可能な限り早急に礼を尽くすのが暗黙の掟である。いかに拉致監禁の直後とはいえ、特に怪我などで動けないというわけではなかった為、身体を休めるよりもまず先に礼を尽くさねばならない。そんなこんなで一日中駆けずり回っていて、ようやくホッと一息つけたのが今というわけだった。
「白龍、本当にお疲れ様。今夜はゆっくり休んで!」
拉致されてからこの方、丸一日以上食事も水も与えられずに簀巻きにされていたわけである。当然体力も消耗しているだろうし、精神的にも疲れているはずである。今はとにかく何を置いても充分な休息を取って欲しいと、冰はただただそれだけを願っていたのだ。
だが、周の方は存外元気な様子で普段と何ら変わりはなさそうである。食事もたっぷりと摂ったし、ゆっくりと風呂も満喫したので、すっかり元通りの様子だった。
「挨拶回りは済んだし、明日は一日中ゴロゴロしてられるんだ。ゆっくりするのは明日でいい」
最上級のスイートルームの大きなソファに深く背を預けながら、まるで姫抱きするようにすっぽりと腕の中へと抱え込まれて、冰はみるみると頬を朱に染め上げた。
「白……白龍……! あの……疲れてないの?」
「ああ」
「だ、あの……だってさ、ずっと拘束されてたんだし、事件が解決してからも挨拶回りで走り回ってたし。それに昨夜はよく休めなかったんじゃないかと思って」
「いや、逆に睡眠薬のお陰で普段より熟睡できたくれえだ」
「ええー……! またそんなこと言って」
心配を掛けまいと、わざと元気な素振りを見せてくれているのかも知れないと思うと、冰はそれの方が心配なのだ。そんな思いが顔に表れていたのか、周は抱きかかえた彼の額に軽く口づけながら笑った。
「心配には及ばねえさ。実際、俺も兄貴も、それにカネのヤツもだが、ああいった状況には慣れてるからな」
「慣れてるって……監禁されたりしたこととか……前にもあったってこと?」
「そうじゃねえが、そういった状況になった時の為の訓練はガキの頃から受けさせられてたからな」
「訓練?」
冰はすっかり驚いてしまい、元々大きな瞳を更に大きく見開いてしまった。
「毎年夏休みと冬休みの二回だ、俺たちは実戦を兼ねた修行に行かされてな。傭兵上がりの厳しい師匠の元で地獄の訓練ってヤツをやらされて育ったんだ」
「じ、実戦?」
「ああ。物心ついた時にはもう夏休みと冬休みが嫌で嫌で仕方なかったくれえだからな。この世から長期休暇なんてモンは無くなっちまえばいいとどれほど思ったことか」
周は懐かしそうに笑うが、冰にしてみれば驚きという他ない。辛かったという周には悪いが、まさに異次元の世界に興味津々といった表情で身を乗り出してしまった。
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