極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
367 / 1,212
極道の姐

55

しおりを挟む
「美紅!」
「黒龍……ッ! ああ、良かった! 無事だったのね!」
 美紅が跳ねるようにして風へと抱きついてくる。その華奢な身体を受け止めると、風もまた愛しい妻を懐の中へと抱き締めた。
「血……ッ!? 怪我をしてるの黒龍!」
 派手に飛び散った血糊に驚く妻を抱き締めたままで風が笑う。
「心配するな。これはガセの血糊だ」
「血糊? まあ、そうなの!」
 美紅がホッとしたように胸を撫で下ろしている。
「それよりお前、一人でここに乗り込んで来たのか?」
 風が怪訝そうな顔で訊くと、今度は美紅が笑いながら言った。
「いいえ、お父様も一緒よ! いま、階下のロビーにいらっしゃるわ」
「親父が……! そうか!」
「ええ、そう。あなたたちが戻って来ないと連絡を受けて、すぐにお父様がマカオへ乗り込んで陣頭指揮を取ってくださったのよ! アタシは家で待っているように言われてたんだけれど、とてもじゃないけどじっとしてなんかいられなくて……! お母様と一緒にお父様たちの後を追い掛けて来たの」
「そうだったのか。親父が……」
 だが、父の隼が来ていることは周兄弟にも分かってはいた。冰の指に輝く琥珀の指輪を目にした時点で、それが父から託されたものと理解していたからだ。
「お前にも皆にも心配をかけてすまない」
 風は再び妻を懐の中へ抱き締めると、誰に憚らずといった調子で彼女に口づけた。深い深い安堵と愛情を込めたキスだった。
 そんな二人の様子を微笑ましげに見つめながら周と冰が部屋の中から姿を現すと、美紅は彼らの無事を喜んで冰へと抱きついた。
「白龍、冰! あなたたちも無事で良かった! 冰のお陰で黒龍も無事だったわ!」
「お姉様……!」
「本当によく頑張ってくれたわね! アタシがお父様の元へ到着した時には、既にあなたがこのホテルに潜入した後だったんだけれど、集音器であなたの活躍をずっと聞いてたのよ! 本当にありがとう! 怖かったでしょうに……!」
 敵を欺き、身を呈して乗り込んでいった冰に心からの感謝を伝えながら、美紅は大切な義弟を抱き締めた。
 すると、真向かいの部屋の扉が開かれ、中からは紫月に肩を借りた鐘崎が姿を現した。催淫剤に侵された欲をとりあえず解放したものの、未だおぼつかない足取りで紫月に支えられながら出てきたのである。
「カネ! 一之宮! お前らも無事で良かった!」
 周が冰の腕を掴んだまま真っ先に駆け寄って労いの言葉を口にする。鐘崎も友の無事な姿を確認できて、ホッとしたように安堵の表情を浮かべていた。そして、互いの行動を把握すべく身につけていた通信機で冰の活躍を聞いていた紫月からも労いと絶賛の言葉が投げ掛けられる。
「冰君! 今回もまたすげえ巧みな演技だったな! 俺なんか遼の介抱しなきゃなんねえのに、そっちの部屋の様子が気になって仕方なくってさ! てめえの亭主そっちのけで動向に聞き入っちゃってたぜ!」
 紫月がバツの悪そうに苦笑しながら頭を掻いてみせると、周囲からはドッと朗らかな笑いが湧き起こった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

処理中です...