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極道の姐
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「焔があまりに酷いことを言ったからだわ……。シノギだなんて言われればこの人が怒るのも当然だもの。だって結局はこの人のことを金蔓としてしか見ていなかったってことじゃない。腹が立ち過ぎて、つい日本語が出ちゃったのよ、きっと」
つまり、それほど怒り狂っているということだ。静雨にしてみても、もしも自分が冰の立場なら到底正気ではいられないと思えるのだろう。自業自得とはいえ、同じように金で苦労した彼女ならではの理解といえるかも知れない。
「けどよ、この兄さんはここマカオのマフィアなんだろ? いくら腹が立ったからって、とっさに日本語が出るっておかしくねえか?」
「いいえ、おかしくはない……というよりそれで当然じゃないかしら。焔は香港と日本の混血だし、今は会社も日本の東京にあるわ。それに……この人だってしばらく焔と一緒に日本で暮らしていたわけだし、雪吹冰っていう名前からして彼もおそらく日本人なんじゃないかしら。もしかしたら焔のようにここと日本のハーフなのかも……」
「はぁん、なるほどね。俺以外は皆バイリンガルの天才ってわけかよ。ま、そういうお前も広東語に英語、それに日本語の三ヶ国語が話せるんだから大したモンだわな!」
ロンが納得したのか感心顔でいるが、実はこれも冰の作戦の内の一齣だったのだ。この後の策にはどうしても周兄弟に日本語で伝えなければ意味が通らないことがあり、その為に適当なタイミングで日本語へと切り替える必要があったのだった。
きっかけは何でもよかったのだが、偶然にも周が上手いこと怒りに火を点けるようなことを口走ってくれたので、言語を切り替えるなら今と踏んだわけだ。
静雨が日本語を話せるのは承知だし、ロンには彼女が通訳をするだろうから、若干のタイムラグはあっても心底疑われることはないはずだ。冰はわざと三ヶ国後をごちゃ混ぜにしながら、敵を翻弄しつつ策を進める戦法に出たのだった。
その読み通りに静雨が通訳をし出したのを見やりながら、冰は日本語での会話を続けた。
「……ッ、つまりアンタは俺をいいカモとしか思ってなかったってわけだな! 畜生ッ……! こんなヤツにまんまと嵌められただなんて……悔やんでも悔やみ切れねえ! こうなったら金だけは何が何でも返してもらうぞ! ログインコードを言え! 俺の金を返せ! 返せよ!」
怒鳴り上げる側から静雨がロンへと通訳をしていく。それを横目にしながら、周の方も冰に合わせるように日本語での相槌を続けていった。
「そうがなり立てるな。ますます興醒めするじゃねえか」
「何だとッ! こんの……てめ、マジで脳天ブチ抜くぞ!」
「ああ、分かった、分かった。てめえをカモにしたことは認めるから、そうガミガミ怒鳴るな。それこそ脳天に響いて仕方がねえ。お前からチョロまかした金は既に俺の手元を離れて、今はそこにいる兄貴の管理下だ。金を返して欲しけりゃ兄貴に言うんだな」
顎でしゃくって隣の風の方を指す。つまり口座にログインさせたいなら兄の風に訊けと言ってみせる。それもそのはずである。冰が周へと見せた画面は、銀行口座のログインページなどではなく、ただのメモ書きだったからだ。そこには簡潔にこう記されていた。
着弾と同時に血糊が出る。
万が一の時は死んだフリして。
後のことは上手くやるよ。
今、冰が構えているマグナムが偽物だということと、話の流れで発砲せざるを得なくなった時は死んだフリをしてくれという指示である。それを兄の風にも知らせるには、この画面を彼にも見せる必要があると踏んだわけだ。
つまり、それほど怒り狂っているということだ。静雨にしてみても、もしも自分が冰の立場なら到底正気ではいられないと思えるのだろう。自業自得とはいえ、同じように金で苦労した彼女ならではの理解といえるかも知れない。
「けどよ、この兄さんはここマカオのマフィアなんだろ? いくら腹が立ったからって、とっさに日本語が出るっておかしくねえか?」
「いいえ、おかしくはない……というよりそれで当然じゃないかしら。焔は香港と日本の混血だし、今は会社も日本の東京にあるわ。それに……この人だってしばらく焔と一緒に日本で暮らしていたわけだし、雪吹冰っていう名前からして彼もおそらく日本人なんじゃないかしら。もしかしたら焔のようにここと日本のハーフなのかも……」
「はぁん、なるほどね。俺以外は皆バイリンガルの天才ってわけかよ。ま、そういうお前も広東語に英語、それに日本語の三ヶ国語が話せるんだから大したモンだわな!」
ロンが納得したのか感心顔でいるが、実はこれも冰の作戦の内の一齣だったのだ。この後の策にはどうしても周兄弟に日本語で伝えなければ意味が通らないことがあり、その為に適当なタイミングで日本語へと切り替える必要があったのだった。
きっかけは何でもよかったのだが、偶然にも周が上手いこと怒りに火を点けるようなことを口走ってくれたので、言語を切り替えるなら今と踏んだわけだ。
静雨が日本語を話せるのは承知だし、ロンには彼女が通訳をするだろうから、若干のタイムラグはあっても心底疑われることはないはずだ。冰はわざと三ヶ国後をごちゃ混ぜにしながら、敵を翻弄しつつ策を進める戦法に出たのだった。
その読み通りに静雨が通訳をし出したのを見やりながら、冰は日本語での会話を続けた。
「……ッ、つまりアンタは俺をいいカモとしか思ってなかったってわけだな! 畜生ッ……! こんなヤツにまんまと嵌められただなんて……悔やんでも悔やみ切れねえ! こうなったら金だけは何が何でも返してもらうぞ! ログインコードを言え! 俺の金を返せ! 返せよ!」
怒鳴り上げる側から静雨がロンへと通訳をしていく。それを横目にしながら、周の方も冰に合わせるように日本語での相槌を続けていった。
「そうがなり立てるな。ますます興醒めするじゃねえか」
「何だとッ! こんの……てめ、マジで脳天ブチ抜くぞ!」
「ああ、分かった、分かった。てめえをカモにしたことは認めるから、そうガミガミ怒鳴るな。それこそ脳天に響いて仕方がねえ。お前からチョロまかした金は既に俺の手元を離れて、今はそこにいる兄貴の管理下だ。金を返して欲しけりゃ兄貴に言うんだな」
顎でしゃくって隣の風の方を指す。つまり口座にログインさせたいなら兄の風に訊けと言ってみせる。それもそのはずである。冰が周へと見せた画面は、銀行口座のログインページなどではなく、ただのメモ書きだったからだ。そこには簡潔にこう記されていた。
着弾と同時に血糊が出る。
万が一の時は死んだフリして。
後のことは上手くやるよ。
今、冰が構えているマグナムが偽物だということと、話の流れで発砲せざるを得なくなった時は死んだフリをしてくれという指示である。それを兄の風にも知らせるには、この画面を彼にも見せる必要があると踏んだわけだ。
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