極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
345 / 1,212
極道の姐

33

しおりを挟む
 確かにディーラーの技でカードゲームなどを自在に操れる冰ならば、敵の目を欺いて銃をすり替えることは可能かも知れない。だが、実弾入りの銃が目の前にある状況下では危険なことに変わりはない。冰の覚悟や腕前には信頼がおけるものの、隼としては実の息子同然の彼をそのような危険な目に追い込むことを心苦しく思うと同時に、心底心配しているようだった。

「冰――」

 隼は両手を広げて冰を懐の中に抱き締めると、自らの指輪を外して差し出した。大きな琥珀の石がはまった立派な指輪だ。
「これをはめて行け。焔がお前さんの演技を見抜けないということはないとは思うが、万が一の為だ。今回、お前さんは焔に愛想を尽かされて恨みに思っているという演技をしなければならん。焔が言葉通りに受け取るとは思えんが、この指輪を見れば、何も言わずとも焔にも風にも真意が伝わる」
 周兄弟が幼い頃からずっと目にしてきた父の象徴ともいえる大切な指輪を冰に託そうというのだ。
「お父様、ありがとうございます……! このような大事なものを……」
「お前は風と焔同様、かけがえのない俺の大切な息子だ。この指輪はきっとお前を守ってくれるだろう」
「はい……はい! 必ず白龍とお兄様、そして鐘崎さんと一緒にお父様の元へ戻ります!」
「うむ、頼んだぞ」
「はい!」
 張の部下からもモデルガンが届き、冰、そして僚一と紫月らの準備が整うと、いよいよ敵陣に向けて出発することとなった。冰の案内役として、張と張の知人であるスラム街を仕切るボスの男も付き添ってくれるという。
「ロンは俺のガキの頃からの馴染みだ。俺がいればヤツもそう警戒せずにすんなりと中に入れてくれるはずだ」
「ありがとうございます! 皆さんのご助力に感謝致します」
 深々と頭を下げた冰に、張とボスの男も力になれて嬉しいという表情でうなずいた。
「あんたはここマカオのマフィアということにしといてくれ。ロンのヤツは長年米国に行ったきりだったんで、マカオの裏社会のことには疎い。あんたの顔を知らなくても怪しまれんだろうからな」
 ボスの男の提案で、冰はマカオのマフィアの一員ということで通すことに決まった。冰と彼が顔見知りでも、地元マカオの繋がりならば怪しまれにくいからだ。
「時間はないが、冰。弾込めと撃ち方を教えておく」
 隼がモデルガンを手に取って一通りの扱い方を手解きする。
「お父様、ありがとうございます!」
 ただ、実のところ冰は銃を目にするのが初めてというわけではなかった。育ての親だった黄老人はディーラーをしながら裏社会にも顔が利く人物だった為、銃の扱い方なども一通り教えてくれていたからだ。試し撃ちなどの経験もあったから、扱い方自体は分かるものの、むろん実戦で撃ち合ったことなどはないので、隼からの教示に真剣に耳を傾けておさらいをする冰であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...