極道恋事情

一園木蓮

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極道の姐

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『はん! 話に聞いた通りクソ生意気な野郎だぜ。てめえは弟の方だったな? 名前は焔だっけ? まあ、てめえに用があるのは俺じゃなく、俺の連れの方だ。今は交代で休んでいるが、あの女が起きてきたらたっぷりと相手させてやっから楽しみに待っとけ!』
 その言葉に、周が眉根を寄せたらしいことが気配で分かった。
『女だと? 俺らを拉致したのは女だってのか?』
 まるで地鳴りがするような不機嫌な声で訊く。その圧に押されたのか、男の方もわずかたじろいだようにうわずった声でこう答えた。
『……ったくよー、女ってのはどうしてこう見てくれだけで野郎に惚れる生き物なのかね? てめえらみてえな色男は、同じ男の俺からしたら反吐が出る以外の何者でもねえがな。だがまあ、寄って来る女をすべて相手にできねえほどモテるってのも、ある意味気の毒と言えなくもねえってところか。振った女に恨まれてこんな目に遭わなきゃなんねえんだから、その点は同情するぜ』
『振った女だ?』
 周の地を這うような声が更に低く尖った。
 男の言うことが事実ならば、今回の拉致を企てた犯人は女ということになる。しかも、振った女というヒントから、周の脳裏には瞬時にその存在が過ぎったようであった。
『まさか唐静雨か』
『ご名答! やっぱホントに振ったってわけか! しっかしてめえももったいねえことしでかしたもんだな? 静雨は結構イイ女だと思うがね。いったいどこが気に入らなかったんだ?』
『あの女とはどういう知り合いだ』
『静雨とはブルックリンのデリで知り合ったんだが、俺がニューヨークマフィアの一員だと知ったら、途端にイチコロになりやがってな。あの女の方から擦り寄って来やがったのさ。それまではいくら色目を使ってやっても鼻も引っ掛けなかったくせによ? 女ってのは権力にも弱い生き物なんだな』
『マフィアだと? てめえがか?』
『おうよ! てめえらも香港じゃそこそこ知れたマフィアだそうだが、格としては俺の方が上だろうが! 何てったって天下のニューヨークでマフィア張ってんだからなぁ』
『ほう? てめえがニューヨークマフィアね』
『どうだ、恐れ入ったか!』
『まあな。で、そのニューヨークマフィア様が何だってあの女に肩入れしてるってわけだ。てめえも裏の世界に片足突っ込んでいるなら、何の考えもなしで異国の同業者にちょっかい掛けるなんざバカなことはしねえだろうが。もしかあの女に入れ上げてでもいるってわけか?』
 周にしては珍しくも相手を持ち上げるような口ぶりで、えらく懐の深い態度といえるが、裏を返せばこれも男から事情を聞き出す為の手段であろう。持ち上げていい気分にさせながら、洗いざらい情報を引き出そうというのが、集音器を囲んでいる紫月らにはよくよく理解できるようだった。
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