極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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「よし! 今夜は宴会だ! 急なことでざっくばらんな持てなししかできねえが、皆で祝杯といこうじゃねえか!」
 鐘崎親子にしてみれば、一応は飛燕からの承諾を得るまではと思い、入籍祝いの宴の準備まではしていなかったのだが、無事に届け出も済んだとなれば、やはり祝杯くらいはあげたい気分になるというものだ。今ここに顔を揃えている者たちと組の若い衆らだけだが、皆で集まって一杯やろうと思うのだった。
 すると、周が僭越ながら――と、前置きと共に割って入った。
「実はウチの料理人たちが心ばかりですがケータリングの準備をしております。よろしければささやかながらの俺と冰の祝いの気持ちとして受け取っていただければ幸いです」
 なんと、周の汐留の邸で調理を担当しているシェフたちによって、宴の用意が整っているというのだ。しかも、ケータリング――つまりは他所へ料理や飲み物を運んでパーティーを催す形式――ということである。一報が届けば、すぐさま鐘崎家へ向けて出発する用意が万端だとのことだった。
 周としては、飛燕が承諾することを見込んで、その日は内々で軽く祝杯をあげたいだろうと踏んで用意をしていたのだ。
 そんな友の厚情に、鐘崎も紫月も、そして双方の親たちも心から有り難く思うのだった。信頼し合える家族と仲間たちに囲まれて、誰もがしみじみと幸せを噛み締める、そんな瞬間であった。
「ところでカネ、お前らハネムーンはどうするんだ」
 周に訊かれて鐘崎は瞳を瞬かせた。
「おう、そうだな。披露目の時には特にそういったことはしないまま今日まできちまったからな。紫月、何処か行きたい所はあるか?」
「ハネムーン? そういやそんなことまったく頭になかったわなぁ」
 紫月も言われて初めて気がついた口ぶりである。そんな二人を横目に周がワクワクとした顔で提案した。
「実は俺と冰もハネムーンらしきものはやらずじまいでな、香港の実家に挨拶しただけで済ませちまったんだ。改めてお前らと一緒に行くってのもいいかと思っているんだが」
「そいつはいいな。紫月、冰、お前たちの行きたい所があれば何処でもいいぞ!」
「マジ?」
「うわぁ! 紫月さんたちと一緒ならめちゃくちゃ楽しそうだね!」
 旦那衆の言葉に紫月と冰は両手放しで歓喜の声を上げた。
「ニューヨークでミュージカルや美術館巡り、あるいはミラノかパリで城巡りもいいぞ」
「それか、バリやセイシェルあたりでマリンスポーツを楽しむって手もあるぜ」
「敦煌の砂漠でラクダに乗るのもオツだ」
「これからの時期なら北欧のロッジで雪遊びってのもいい」
 周と鐘崎が交互にさまざま魅惑的な提案を口にするので、紫月と冰は大きな瞳をグリグリとさせながら興奮状態で手を取り合う。
「何処も良さげで迷っちまうな! 冰君はどれがいい?」
「そうですねぇ、俺は香港とマカオ、日本以外は行ったことがないので何処でも嬉しいです!」
 はしゃぐ嫁たちを見つめながら、旦那衆二人からは頼もしげな言葉が飛び出した。
「二人でよく相談して行きたい所を決めりゃいい」
「だな! 俺らは奥方の財布役に徹するさ」
「おっほほー! やったな冰君!」
「はい! 最高ですね!」
 気前のいい亭主たちの愛情に包まれて、喜び勇んだ紫月と冰であった。



◇    ◇    ◇


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