極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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「俺と冰の入籍の際にもお前ら二人には付き添ってもらったからな。今度は俺らが祝福する番だ」
「鐘崎さん、紫月さん、それからご親族の皆様、おめでとうございます!」
 周と冰が揃って祝いの言葉を口にする。どちらも我が事を喜ぶように頬を紅潮させながら、本当に嬉しそうであった。
「遼二坊、ご友人方もこうしてお運びくださったことだし、今からでも早速届け出の手続きに取り掛かったらどうだ? 幸い、書類に必要な面々は揃っているんだ。僚一は多忙な身だし、今度今度と先延ばしにしていちゃ、次はいつになるか分からんぞ」
 紫月の父親の飛燕が悪戯そうな笑みを浮かべてそう言う。
「親父っさん、ご厚情に感謝致します――!」
 鐘崎は感激ひとしおの思いで、今一度畳に両手をついて感謝の意を述べた。
「では――お言葉に甘えまして、これから手続きに取り掛からせていただきたいと存じます」
 役所に提出する為の書類は既に用意してあったので、組で待機している専属の弁護士に伝えて一之宮道場まで届けてもらうことにする。そして、署名捺印が済むと、皆で揃って近くの役所へと向かった。
「……ん、なんか緊張するな」
 紫月が生真面目な顔付きでドキドキと視線を泳がせている。相反して鐘崎の方はゆったりと落ち着いた雰囲気で、そっと紫月をリードするように彼の側に寄り添っていた。気持ちの上でも形の上でも、いよいよ本物の旦那としての貫禄が垣間見えた瞬間であった。
 紋付き姿の鐘崎親子は役所内でも人目を引いていたが、弁護士の手際良い誘導によって早々に手続きも済み、無事に役所を後にする。
「遼二、紫月、おめでとう! 鐘崎紫月――か。いい名じゃねえか!」
 鐘崎の父が誇らしげに微笑んでみせる。紫月の父親の飛燕も同様だと言ってうなずいた。その脇では周が、
「そうか――鐘崎紫月になったわけだな。ってことは、俺も今度からは”紫月”と呼ばにゃいかんな」
 『うんうん』と首を縦に振りながら独りごちている。高校時代からずっと『一之宮』と呼び続けてきたので、つい口癖のようにそう呼んでしまいそうなのだ。そんな彼に対して鐘崎が面白そうに口角を上げてみせた。
「別に一之宮のままでもいいじゃねえか。俺も紫月も鐘崎と一之宮の二人の親父の息子に変わりはねえんだ。それに――お前らのように香港式でいうなら、”あざな”みてえなもんだと思えばいい」
あざな――か。そうか! そういう解釈もあるな! 俺は周焔白龍だから――」
 周が言い掛けたのに続いて、
「鐘崎紫月一之宮――ってなるんだね!」
 冰がその後を口にする。
「おう! いいな。ますます繁栄しそうなめでてえ名だ」
 鐘崎の父親が手を叩きながらうなずいたのを見て、紫月の父の飛燕も本当に嬉しそうであった。
「僚一、それに遼二坊――お前さん方の厚情には感謝が尽きない。これからは本物の家族親戚として末永くよろしく頼むよ」
 飛燕のそんな言葉に、紫月もしみじみと幸せを実感するのだった。
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