極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
298 / 1,212
厄介な依頼人

47

しおりを挟む
 いつものように有無を言わさず我が物顔で奪ってしまいたい欲望と、いくら欲すれども決して自分には踏みにじることの許されない、手を触れることさえためらってしまうような尊さが怖くもあって――

「堪らない気分なんだ……。愛しいだけじゃねえ――今のこの気持ちを……どう言やいいのか……分からねえ」

 それほどまでに、どこまでもどこまでも果てしなく――

「お前を愛している――。お前を尊敬している。お前が誇りだ。お前が唯一無二だ。お前だけが俺の――」

 命そのものなんだ――!

 愛しい者を見つめる鐘崎の瞳は、確かに愛しい者を捉えながらも、もっともっとその先にある尊いものに甘えるかのように儚げに揺れていた。
「バッカ……遼。てめ、いきなりンな歯の浮くようなこと言いやがって! 照れるじゃねっかよー……」
「だが本心だ。俺はお前に甘えてばかりだ。好きだの愛してるだの言いながら、欲望のままにお前を貪ることで安心してるガキそのものだ」
「何、急に……。お前らしくもねえ」
「好意を寄せてくれた娘一人も上手くあしらえねえで、結局はお前に頼りきりの始末だ。あの娘に対しても少なからず傷つけたことに変わりはねえし、お前のようにデカい心で接してやることもできなかった」
 胸元に頬を寄せながら自らの非力さに落ち込む様子はまるで甘えん坊の少年のようだ。紫月はそんな亭主の逞しい肩を両の腕で抱き包み、そっと髪を撫でた。
「いんだよ、お前はそれで。好いてくれた相手の気持ちに全部応えられるわけじゃねんだ。そーゆーのは俺の役割だ」
「……情けねえ亭主にそんなふうに言ってくれんのはお前だけだ」
「ンな卑下すんなって。お前は情けなくなんかねえ。俺にとっちゃ最高の亭主なんだからよ。まあ、無えとは思うけど、逆に俺が誰かに好かれて断れないでいる時は、お前が手を差し伸べてくれりゃいんだからさ」
「紫月……本当にお前ってヤツは……」
「ま、俺たちゃ夫婦ってヤツだからさ。お互い様さ」
「紫月、甘えさせてくれ……。ずっとずっと、お前のこの胸で俺を。いつまでも……」

 そう、いつまでもいつまでも永久に。

「ああ、いいぜ。とことん気の済むまで甘えろよ……。俺も……そうさしてもらうから」
「紫月……!」

 こんなにも愛しい気持ちがあるだろうか。

 こんなにも甘やかでやさしくて大きくて。切ないほどに、目頭が熱くなるほどに今この瞬間が幸せで堪らない。溢れる想いのままに、鐘崎は紫月を抱き締めた。戸惑うように唇を重ね、髪の一本から爪のひとかけらまであますところなくすべてを委ね合う。
「……結局……貪ることしかできねえ。どんなに肌を重ねようがまったく足りねえ……。紫月、お前の中に溶け込んで混ざって、二度と離したくねえくらいだ」
「バッカ、遼……」
「事実だ」
 どんな言葉で紡ごうが、どんな愛撫で塗れようが表しきれない想いもあるのだと知る。それほどまでに欲してやまないこの恋心が怖いくらいだ――!
「好きだ――紫月」
「ああ……俺も」
 天心に輝く月が、やがて胡粉の色になって西の空に溶け込むように、二人は止めどなく互いを慈しみ合い、甘え合ったのだった。



◇    ◇    ◇


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

処理中です...