296 / 1,212
厄介な依頼人
45
しおりを挟む
「けど、さすが姐さんっス! あの血気盛んな年頃のチンピラ連中も大人しくさせちまうんですもん! しかも、殴るでもなきゃ暴力沙汰には一切せずに収めちまった! それに、あんだけしつこかった例の娘まで諭しちまうしで……俺ら、正直感動しちまいました!」
「そうっスよ! 若や清水幹部があれだけ手を焼いてたってのに、姐さんが出て行った途端にあの娘っ子ってば!」
「そうそう、すっかり人が変わったようにいい子になっちまいやがった! 驚いたなんてもんじゃありませんよ」
「いやぁ、さすが姐さんです!」
皆一様に感激の眼差しで興奮状態でいる。自治会の老人方も同様に紫月を褒め称えながらうなずいていた。
「別に俺は大したことをしたわけじゃねえよ。ただ、あの娘も自分で自分が制御できなくなって意固地になってただけなんだろうと思ってな。正面から真っ直ぐに向き合ってやれば、自分を取り戻すきっかけが掴めるんじゃねえかって思っただけさ」
これまでは、皆が腫れ物に触るようにして斜めからしか彼女を受け止めてやれなかったのだろう。彼女の父親も、そして実に鐘崎自身も例外ではない。まあ、鐘崎の場合は伴侶である紫月に対する遠慮があったのだろうし、誤解を生むようなことはしたくないという気持ちが強かった為に少々冷たい向き合い方しかできなかったのだと思われる。そんな亭主の深い愛情に感謝すると共に、この問題を正面から受け止めてやるべきは自分の役目だと紫月は思っていたようだ。
「でもホント、改めて姐さんの大きさを目の当たりにしました。姐さんは俺ら全員の誇りです!」
「バカタレ、そうおだてるなって! 照れるじゃねっか」
言葉とは裏腹に、実に爽やかな笑顔を見せる自分たちの姐さんを囲みながら、組員たちも朗らかな笑顔に包まれるのだった。
「そういえば、もうすぐ若も帰って来られると思いますよ!」
ここに着いたと同時に入れた橘からの報告を受けて、すぐに仕事を切り上げて駆け付けるから、それまで紫月を頼むと鐘崎は言ったそうだ。
「あー、マジ? ンじゃ、旨いメシでもこさえて待っててやっか! 今日の晩飯は久々に俺が作っちゃる! お前ら何食いたい?」
紫月の明るい声に若い衆らが一斉に盛り上がる。
「やった! 姐さんのメシかぁ!」
「めちゃめちゃ旨いっスからね、姐さんの作るメシは!」
「俺、ハンバーグがいいっス!」
「俺も俺も! 姐さんのチーズ入りバーグは最高っスもん!」
「よっしゃ! ンじゃ、帰りに食材買ってくか! 腕によりを掛けちゃるわ!」
「俺、荷物持ちますから!」
「姐さんと一緒に買い物行ったなんて知れたら、若にド突かれそうだなぁ!」
「あー、言えてる! 若はああ見えて案外ヤキモチ焼きっスからね!」
「そりゃお前、姐さんに対してだけだろうが!」
ワイのワイのと楽しげな笑い声に包まれながら、まるで学生時代の部活動の帰り道のように夕陽の射す帰路を共に歩く。自分たちの足元から伸びる長い影が重なり合うことに幸せを感じる組員たちだった。
◇ ◇ ◇
「そうっスよ! 若や清水幹部があれだけ手を焼いてたってのに、姐さんが出て行った途端にあの娘っ子ってば!」
「そうそう、すっかり人が変わったようにいい子になっちまいやがった! 驚いたなんてもんじゃありませんよ」
「いやぁ、さすが姐さんです!」
皆一様に感激の眼差しで興奮状態でいる。自治会の老人方も同様に紫月を褒め称えながらうなずいていた。
「別に俺は大したことをしたわけじゃねえよ。ただ、あの娘も自分で自分が制御できなくなって意固地になってただけなんだろうと思ってな。正面から真っ直ぐに向き合ってやれば、自分を取り戻すきっかけが掴めるんじゃねえかって思っただけさ」
これまでは、皆が腫れ物に触るようにして斜めからしか彼女を受け止めてやれなかったのだろう。彼女の父親も、そして実に鐘崎自身も例外ではない。まあ、鐘崎の場合は伴侶である紫月に対する遠慮があったのだろうし、誤解を生むようなことはしたくないという気持ちが強かった為に少々冷たい向き合い方しかできなかったのだと思われる。そんな亭主の深い愛情に感謝すると共に、この問題を正面から受け止めてやるべきは自分の役目だと紫月は思っていたようだ。
「でもホント、改めて姐さんの大きさを目の当たりにしました。姐さんは俺ら全員の誇りです!」
「バカタレ、そうおだてるなって! 照れるじゃねっか」
言葉とは裏腹に、実に爽やかな笑顔を見せる自分たちの姐さんを囲みながら、組員たちも朗らかな笑顔に包まれるのだった。
「そういえば、もうすぐ若も帰って来られると思いますよ!」
ここに着いたと同時に入れた橘からの報告を受けて、すぐに仕事を切り上げて駆け付けるから、それまで紫月を頼むと鐘崎は言ったそうだ。
「あー、マジ? ンじゃ、旨いメシでもこさえて待っててやっか! 今日の晩飯は久々に俺が作っちゃる! お前ら何食いたい?」
紫月の明るい声に若い衆らが一斉に盛り上がる。
「やった! 姐さんのメシかぁ!」
「めちゃめちゃ旨いっスからね、姐さんの作るメシは!」
「俺、ハンバーグがいいっス!」
「俺も俺も! 姐さんのチーズ入りバーグは最高っスもん!」
「よっしゃ! ンじゃ、帰りに食材買ってくか! 腕によりを掛けちゃるわ!」
「俺、荷物持ちますから!」
「姐さんと一緒に買い物行ったなんて知れたら、若にド突かれそうだなぁ!」
「あー、言えてる! 若はああ見えて案外ヤキモチ焼きっスからね!」
「そりゃお前、姐さんに対してだけだろうが!」
ワイのワイのと楽しげな笑い声に包まれながら、まるで学生時代の部活動の帰り道のように夕陽の射す帰路を共に歩く。自分たちの足元から伸びる長い影が重なり合うことに幸せを感じる組員たちだった。
◇ ◇ ◇
15
お気に入りに追加
871
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる