極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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 よくよく見れば、鐘崎とは雰囲気が違えども、紫月もまた万人が見惚れるほどの男前である。先程の男たちも言っていたが、確かに超がつくほどのイケメンといえる。背も高く、大きな二重の瞳は吸い込まれそうに魅力的でもあるし、体つきこそ鐘崎のようにがっしり筋肉質というわけではないが、スレンダーで均整のとれたモデルのような印象だ。
 正直なところ、鐘崎の相手が男性だと知った時には想像すらしていなかった風貌と、そしてそれに見合う大きくて温かな心の持ち主でもあることに驚愕の思いが隠せない。繭の中ではもっとチャランポランな軽薄そうな男と勝手に思い込んでしまっていたのだ。
 あまりのギャップに、どうしていいか分からないくらいに心が揺れる。さすがにあの鐘崎が心惹かれるのが納得できてしまうのと同時に、これほどまでに心の広く温かい人間に出会ったことがなかったことにも気付かされる。
「……どう……して? どうして……怒らないの……?」
 ポロポロとこぼれる涙を拭いもせずに、繭は真っ直ぐに紫月を見上げた。
「どうしてって、今ちゃんと説教はしたろ? アンタも俺の言ったことを分かってくれたからじいちゃんにも謝った。そうだろ?」
「……そ……だけど」
「だったらもう怒る必要なんかねえじゃん?」
 だろ? というふうに、ニカッと白い歯を見せて笑った紫月を見て、繭はより一層涙してしまった。まるで子供のように号泣状態だ。
「……じゃあ、じゃあ遼二さんのことは? 本当なら……あなたの彼だったあの人を後から好きになったのはアタシの方だもの。分かってたけど散々迷惑なことをしてしまったわ……。あなただって……実際は嫌な思いをしてたはずだわ。それなのにどうして……アタシを責めようともしないで……それどころかアタシなんかのことを心配して……叱ってくれたり……。どうしてこんなふうにしてくれるの? アタシのこと、嫌なヤツだって思わないの? どうして……」
 これまでは決して認めようとはしなかった自分自身の非を自覚している言葉が自然と口をついて出る。しゃくり上げて泣く様子に、紫月はまたひとたび彼女の頭をグリグリっと撫でると、
「ほら、もう泣くな! ンなツラしてっと美人が台無しになんぞ!」
 ハハっと笑ってポケットからハンカチを差し出した。
「ほれ、使いな。それ、アンタにやるから鼻もちゃんとチーンしろ」
 繭は素直にハンカチを受け取ると、嗚咽する声で絞り出すように謝罪の言葉を口にした。
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