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厄介な依頼人
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「ンなこと言われたってよ……」
「……つか、まだ金も貰ってねえし」
ブツブツと口ごもるも、確かに紫月の言うことも一理あると思うのだろう。もしも今、警察が踏み込んでくれば、上手い言い訳が見つからない。事情聴取くらいは免れないだろう。
「分かった……。そんじゃ、今日のところは引き上げてやるけどよ」
「後でちゃんと約束のモンはいただくかんな!」
繭に向かって捨て台詞を吐く。つまり、報酬を忘れるなという意味だろう。紫月も春日野もやはり金で雇ったわけかと思いながらも、一先ずは男たちが素直に引き上げてくれたことに胸を撫で下ろした。
「さて……と。まずはお嬢さん、アンタだ。今回はたまたま大事に至らなくて済んだが、どこの誰とも知れないような若い男たちをあんなにたくさん集めて、下手したらアンタ自身が危ない目に遭うかも知れなかったんだ。それは分かるな?」
「……危ない目って……」
「もしもじいちゃんの拉致に失敗して、俺もじいちゃんもここに来なかったと考えてみろ。血気盛んな年頃の野郎が十人にアンタみてえな若い女が一人――良からぬことを思い付かねえとは言い切れねえぞ? アンタが到底想像し得ないような嫌な目に遭うことだってあったかも知れないんだ」
「……まさか……」
「あいつらは金で雇ったのか?」
「……そう……だけど」
「上手く俺をおびき出せれば一人十万とか、そんなところか?」
ズバリと言い当てられて、繭は困惑顔でうつむいてしまった。
「……あの人たちは……よく行くカフェの店員さんだもの……。いつもやさしいし、お金だってちゃんと払うって約束してるんだし、そんな……ヘンなことするとは思えないわ」
「だが、全員が親しい店員ってわけじゃねえだろう?」
「知ってるのは二人……。他の人たちは彼らの友達だって……言ってたもの」
「つまり、今日初めて会う連中もいたわけだろ?」
「そう……だけど。でもお金は全員に払うつもりだったし、ホントにやさしい人たちだもの。それに、初対面の人たちだって……アタシに何かすればそれが貰えなくなるのよ? そんな滅多なこと……」
するわけがないと言い掛けた時だった。
「バカ野郎! 甘いこと言ってんじゃねえ!」
突如、怒鳴り上げられて、繭はビクリと肩を震わせた。
「いいか、男が十人、女はアンタ一人。こんな人目につかねえ廃工場なんかにシケ込んで、まかり間違って野郎が欲情しねえ保証なんかねえんだ! あいつらが全員で襲い掛かってきてみろ! アンタ一人でどう太刀打ちできるってんだ!」
「……で、でもお金を……お金をちゃんと払うんだもの……! アタシにヘンなことすればそれがパーになるのよ! そんなことするはず……」
「金なんか頼りになるか! たかだか一人十万そこら貰うより、目の前の獲物を喰らうことが先ずは先だ! その後で金も巻き上げればいい、そう思っても不思議はねえ状況だったってことだ!」
「……そんな」
「いいか、お嬢さん。世の中はアンタが考えてるほどいい人間ばかりじゃねえ。アンタには想像もできねえようなことを平気でやってのけるヤツだっているんだ。今回アンタが雇ったあの男たちが必ずしもそうだとは言わねえが、そういう悲惨な状況になることも十分有り得たってことだ。しかも、その状況を作ったのはアンタ自身だ。万が一とんでもねえ目に遭ってたとしたらどうする? 悔いたって悔いきれねえぞ? もっと慎重になって、何よりてめえを大事にしなきゃダメだ!」
「……つか、まだ金も貰ってねえし」
ブツブツと口ごもるも、確かに紫月の言うことも一理あると思うのだろう。もしも今、警察が踏み込んでくれば、上手い言い訳が見つからない。事情聴取くらいは免れないだろう。
「分かった……。そんじゃ、今日のところは引き上げてやるけどよ」
「後でちゃんと約束のモンはいただくかんな!」
繭に向かって捨て台詞を吐く。つまり、報酬を忘れるなという意味だろう。紫月も春日野もやはり金で雇ったわけかと思いながらも、一先ずは男たちが素直に引き上げてくれたことに胸を撫で下ろした。
「さて……と。まずはお嬢さん、アンタだ。今回はたまたま大事に至らなくて済んだが、どこの誰とも知れないような若い男たちをあんなにたくさん集めて、下手したらアンタ自身が危ない目に遭うかも知れなかったんだ。それは分かるな?」
「……危ない目って……」
「もしもじいちゃんの拉致に失敗して、俺もじいちゃんもここに来なかったと考えてみろ。血気盛んな年頃の野郎が十人にアンタみてえな若い女が一人――良からぬことを思い付かねえとは言い切れねえぞ? アンタが到底想像し得ないような嫌な目に遭うことだってあったかも知れないんだ」
「……まさか……」
「あいつらは金で雇ったのか?」
「……そう……だけど」
「上手く俺をおびき出せれば一人十万とか、そんなところか?」
ズバリと言い当てられて、繭は困惑顔でうつむいてしまった。
「……あの人たちは……よく行くカフェの店員さんだもの……。いつもやさしいし、お金だってちゃんと払うって約束してるんだし、そんな……ヘンなことするとは思えないわ」
「だが、全員が親しい店員ってわけじゃねえだろう?」
「知ってるのは二人……。他の人たちは彼らの友達だって……言ってたもの」
「つまり、今日初めて会う連中もいたわけだろ?」
「そう……だけど。でもお金は全員に払うつもりだったし、ホントにやさしい人たちだもの。それに、初対面の人たちだって……アタシに何かすればそれが貰えなくなるのよ? そんな滅多なこと……」
するわけがないと言い掛けた時だった。
「バカ野郎! 甘いこと言ってんじゃねえ!」
突如、怒鳴り上げられて、繭はビクリと肩を震わせた。
「いいか、男が十人、女はアンタ一人。こんな人目につかねえ廃工場なんかにシケ込んで、まかり間違って野郎が欲情しねえ保証なんかねえんだ! あいつらが全員で襲い掛かってきてみろ! アンタ一人でどう太刀打ちできるってんだ!」
「……で、でもお金を……お金をちゃんと払うんだもの……! アタシにヘンなことすればそれがパーになるのよ! そんなことするはず……」
「金なんか頼りになるか! たかだか一人十万そこら貰うより、目の前の獲物を喰らうことが先ずは先だ! その後で金も巻き上げればいい、そう思っても不思議はねえ状況だったってことだ!」
「……そんな」
「いいか、お嬢さん。世の中はアンタが考えてるほどいい人間ばかりじゃねえ。アンタには想像もできねえようなことを平気でやってのけるヤツだっているんだ。今回アンタが雇ったあの男たちが必ずしもそうだとは言わねえが、そういう悲惨な状況になることも十分有り得たってことだ。しかも、その状況を作ったのはアンタ自身だ。万が一とんでもねえ目に遭ってたとしたらどうする? 悔いたって悔いきれねえぞ? もっと慎重になって、何よりてめえを大事にしなきゃダメだ!」
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