極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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「何よ……余裕ぶっちゃって……。今度はお説教!?」
「まあ、説教っちゃ説教かな。お嬢さんの用があるのは俺なんだろ? だったらじいちゃんを餌に俺をおびき出すような回りくどいマネしねえで、直接俺ンところを訪ねて来るべきだって言ってるんだ。遼二のことだってそうだ。本当にあいつが好きなら直接打ち明けりゃいい。ヤツだってアンタが真剣に気持ちを伝えれば、それを笑ったり蔑ろにするようなヤツじゃねえよ。そりゃ、打ち明けたからってあいつが気持ちを受け入れるか断るかってのは分からねえよ? けど、真剣な気持ちで当たれば、あいつもきちんと向き合って真摯に答えをくれるはずだ」
 紫月の言葉はまさに真剣に繭に向き合っての真摯な意見といえる。普通ならば『俺の男にちょっかい掛けたのはそっちだろう』と詰って当然のところを、穏やか且つ冷静に繭の気持ちに耳を傾けてくれているのだ。
 そして、何より繭にとって都合のいいことも悪いことも有耶無耶にせずにハッキリと告げてくれる。こちらの言い分は丁寧に聞くが、おだてて話を合わせるわけではないし、耳の痛いことも正直に指摘してくれる。そうされて不思議と腹が立たないのは、紫月が真正面から自分を見ようとしてくれているのを本能で感じるからであった。

 ――繭の中で何かが変化しようとしていた。

「な、何よ……全部アタシが悪いみたいな言い方して……」
「全部悪いなんて言ってねえさ。ただ、本当に好きなら真正面から当たるべきだって言ってるんだ。この兄ちゃんたちもどんな条件で集まってもらったのか知らねえが、じいちゃんを脅してこんな所に連れ込むとか、ヘタしたら警察沙汰になるようなリスクを負わせてるんだぜ? もしも今ここで皆が捕まったりしてみろ。こいつらの将来にも少なからず傷をつけることになる」
 繭にとっては考えもしなかったことだ。言われて、初めてそんなリスクも有り得たのだと気付かされる。そして、それは集まった若い男たちにとっても同様だった。まさか、自分たちが脅して連れ込んだ相手から自分たちのことを思いやってくれる言葉が出るなどとは微塵も思わなかったからである。

 ザワザワと、さざ波のように動揺が廃墟内に広がっていく。

 本来ならば、話がこじれた時点でこの紫月という男を袋叩きにでもすればいいと、面白おかしく考えて乗った話である。ちょっとした遊び感覚で、てい良く鬱憤も晴らせる程度に思っていたのだが、それが如何に浅はかで間違った考えであったかということに気付かされる。男たちの間に無意識の動揺が広がっていった。
「とにかく、先ずはじいちゃんに謝って、この兄ちゃんたちも帰してやるんだ。その後で本気で遼二が好きなら本人にそう言えばいい。俺にも言いたいことがあるならちゃんと聞くさ」
 紫月はそう言うと、集まっていた男たちに対してこう付け加えた。
「どういう経緯であんたらがこのお嬢さんとこんなことをしでかしたのかは知らねえが――」
 おそらくは金で雇われたのだろうことは容易に想像がつくものの、そこは敢えて触れないでおく。
「ひとまず今日のところは解散してくれねえか? あんたらがじいちゃんを脅した現場を見てた人はたくさんいるんだ。警察沙汰になる前に帰った方がいい。後のことは俺が引き受ける」
 そう言われて、男たちは戸惑うように互いを見やった。
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