278 / 1,212
厄介な依頼人
27
しおりを挟む
それと同時に、指定のあったスイートルームに、いつどんな客が入室したかなどの詳しいことも調べやすい。みるみる内に繭救出の体制が整えられていった。
また、万が一に備えての防弾ベストや武器などの装備を整える為に、紫月が甲斐甲斐しく鐘崎の支度を整えていく。周や清水らの為のベストなども、手際良くすべて紫月が用意して、装着の補助までをテキパキとこなしていった。
その傍らでは冰も皆の上着を手渡したり、できることを手伝いながら少しでも役に立とうと一生懸命だ。ともすれば危険を伴う心配な状況ではあるが、おろおろとしたりせずに、気丈な様子でしっかりと留守を守る心構えでいる。さすがは裏社会に生きる者の伴侶たちである。
「それじゃ、遼。気をつけてな。氷川もすまない、遼のことをよろしく頼む」
「ああ、任せろ」
「邸には源さんと組員たちを残していく。お前らも気を抜かねえで、ここから出るんじゃねえぞ。何かあれば俺たちの状況は気にせずにすぐに連絡を入れろ」
「分かった。こっちの方は大丈夫だから、とにかくはご令嬢を無事に救出できるよう専念してくれ」
「白龍、鐘崎さん、皆さん、お気をつけて」
しっかり者の嫁たちに見送られながら、鐘崎と周は清水と若い衆数名を伴って邸を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
ホテルに着くと、既に粟津帝斗が待っていて鐘崎らを出迎えてくれた。
「繭嬢がいると思われる部屋は突き止めている。ロビーを見渡せる防犯カメラの映像でも調べたんだが、チェックインをしたのはどうやら繭嬢本人のようだ。カードによる事前決済が行われていて、名義も繭嬢のものだった」
「ということは……犯人に脅されてあの娘が自ら部屋を取ったということか……」
普通に考えればそうなるだろうか。
「ですが、何故ご令嬢はチェックインの際に助けを求めなかったのでしょう? これだけ大勢のスタッフと、ロビーには他のお客さんもいらしたでしょうに」
清水が首を傾げる中、とにかくはその部屋まで行ってみることにした。
「粟津、マスターキーを借りられるか?」
「もちろんだよ。念の為、両隣のスイートも確保してある。他に必要なことがあれば何でも言っておくれ」
「すまない。まずは防犯カメラの映像を見せて欲しい。あの娘と一緒に部屋に入るところが映っていると助かるんだが」
犯人が何名なのか、どういった雰囲気の者なのかが分かれば動きやすいからだ。
「だが、仮にも誘拐だぞ? カメラに映るような低脳とも思えんがな」
周がそう言う傍らで、清水もその通りだとうなずき合っている。
ところがだ。
繭と思わしき女と共に、二人連れの男たちが堂々とスイートルームへと入っていく様子が確認できて、皆は唖然とさせられてしまった。
「何だ、見たところこの娘も怯えてる様子でもねえじゃねえか」
映像を見つめながら首を傾げた周は、この場にそぐわない突飛なことをつぶやいた。
「狂言誘拐じゃねえのか?」
皆が驚きに目を見張る中、鐘崎だけが周同様落ち着いた様子で眉根を寄せていた。
「――かも知れねえな」
「ちょ……ッ、待っておくれ! 狂言誘拐って、つまり繭嬢本人が企てたってことかい?」
帝斗が一等驚いて目を剥いている。鐘崎は防犯カメラの映像を閉じると、自身の推測を話して聞かせた。
また、万が一に備えての防弾ベストや武器などの装備を整える為に、紫月が甲斐甲斐しく鐘崎の支度を整えていく。周や清水らの為のベストなども、手際良くすべて紫月が用意して、装着の補助までをテキパキとこなしていった。
その傍らでは冰も皆の上着を手渡したり、できることを手伝いながら少しでも役に立とうと一生懸命だ。ともすれば危険を伴う心配な状況ではあるが、おろおろとしたりせずに、気丈な様子でしっかりと留守を守る心構えでいる。さすがは裏社会に生きる者の伴侶たちである。
「それじゃ、遼。気をつけてな。氷川もすまない、遼のことをよろしく頼む」
「ああ、任せろ」
「邸には源さんと組員たちを残していく。お前らも気を抜かねえで、ここから出るんじゃねえぞ。何かあれば俺たちの状況は気にせずにすぐに連絡を入れろ」
「分かった。こっちの方は大丈夫だから、とにかくはご令嬢を無事に救出できるよう専念してくれ」
「白龍、鐘崎さん、皆さん、お気をつけて」
しっかり者の嫁たちに見送られながら、鐘崎と周は清水と若い衆数名を伴って邸を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
ホテルに着くと、既に粟津帝斗が待っていて鐘崎らを出迎えてくれた。
「繭嬢がいると思われる部屋は突き止めている。ロビーを見渡せる防犯カメラの映像でも調べたんだが、チェックインをしたのはどうやら繭嬢本人のようだ。カードによる事前決済が行われていて、名義も繭嬢のものだった」
「ということは……犯人に脅されてあの娘が自ら部屋を取ったということか……」
普通に考えればそうなるだろうか。
「ですが、何故ご令嬢はチェックインの際に助けを求めなかったのでしょう? これだけ大勢のスタッフと、ロビーには他のお客さんもいらしたでしょうに」
清水が首を傾げる中、とにかくはその部屋まで行ってみることにした。
「粟津、マスターキーを借りられるか?」
「もちろんだよ。念の為、両隣のスイートも確保してある。他に必要なことがあれば何でも言っておくれ」
「すまない。まずは防犯カメラの映像を見せて欲しい。あの娘と一緒に部屋に入るところが映っていると助かるんだが」
犯人が何名なのか、どういった雰囲気の者なのかが分かれば動きやすいからだ。
「だが、仮にも誘拐だぞ? カメラに映るような低脳とも思えんがな」
周がそう言う傍らで、清水もその通りだとうなずき合っている。
ところがだ。
繭と思わしき女と共に、二人連れの男たちが堂々とスイートルームへと入っていく様子が確認できて、皆は唖然とさせられてしまった。
「何だ、見たところこの娘も怯えてる様子でもねえじゃねえか」
映像を見つめながら首を傾げた周は、この場にそぐわない突飛なことをつぶやいた。
「狂言誘拐じゃねえのか?」
皆が驚きに目を見張る中、鐘崎だけが周同様落ち着いた様子で眉根を寄せていた。
「――かも知れねえな」
「ちょ……ッ、待っておくれ! 狂言誘拐って、つまり繭嬢本人が企てたってことかい?」
帝斗が一等驚いて目を剥いている。鐘崎は防犯カメラの映像を閉じると、自身の推測を話して聞かせた。
15
お気に入りに追加
871
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる