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厄介な依頼人
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それと同時に、指定のあったスイートルームに、いつどんな客が入室したかなどの詳しいことも調べやすい。みるみる内に繭救出の体制が整えられていった。
また、万が一に備えての防弾ベストや武器などの装備を整える為に、紫月が甲斐甲斐しく鐘崎の支度を整えていく。周や清水らの為のベストなども、手際良くすべて紫月が用意して、装着の補助までをテキパキとこなしていった。
その傍らでは冰も皆の上着を手渡したり、できることを手伝いながら少しでも役に立とうと一生懸命だ。ともすれば危険を伴う心配な状況ではあるが、おろおろとしたりせずに、気丈な様子でしっかりと留守を守る心構えでいる。さすがは裏社会に生きる者の伴侶たちである。
「それじゃ、遼。気をつけてな。氷川もすまない、遼のことをよろしく頼む」
「ああ、任せろ」
「邸には源さんと組員たちを残していく。お前らも気を抜かねえで、ここから出るんじゃねえぞ。何かあれば俺たちの状況は気にせずにすぐに連絡を入れろ」
「分かった。こっちの方は大丈夫だから、とにかくはご令嬢を無事に救出できるよう専念してくれ」
「白龍、鐘崎さん、皆さん、お気をつけて」
しっかり者の嫁たちに見送られながら、鐘崎と周は清水と若い衆数名を伴って邸を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
ホテルに着くと、既に粟津帝斗が待っていて鐘崎らを出迎えてくれた。
「繭嬢がいると思われる部屋は突き止めている。ロビーを見渡せる防犯カメラの映像でも調べたんだが、チェックインをしたのはどうやら繭嬢本人のようだ。カードによる事前決済が行われていて、名義も繭嬢のものだった」
「ということは……犯人に脅されてあの娘が自ら部屋を取ったということか……」
普通に考えればそうなるだろうか。
「ですが、何故ご令嬢はチェックインの際に助けを求めなかったのでしょう? これだけ大勢のスタッフと、ロビーには他のお客さんもいらしたでしょうに」
清水が首を傾げる中、とにかくはその部屋まで行ってみることにした。
「粟津、マスターキーを借りられるか?」
「もちろんだよ。念の為、両隣のスイートも確保してある。他に必要なことがあれば何でも言っておくれ」
「すまない。まずは防犯カメラの映像を見せて欲しい。あの娘と一緒に部屋に入るところが映っていると助かるんだが」
犯人が何名なのか、どういった雰囲気の者なのかが分かれば動きやすいからだ。
「だが、仮にも誘拐だぞ? カメラに映るような低脳とも思えんがな」
周がそう言う傍らで、清水もその通りだとうなずき合っている。
ところがだ。
繭と思わしき女と共に、二人連れの男たちが堂々とスイートルームへと入っていく様子が確認できて、皆は唖然とさせられてしまった。
「何だ、見たところこの娘も怯えてる様子でもねえじゃねえか」
映像を見つめながら首を傾げた周は、この場にそぐわない突飛なことをつぶやいた。
「狂言誘拐じゃねえのか?」
皆が驚きに目を見張る中、鐘崎だけが周同様落ち着いた様子で眉根を寄せていた。
「――かも知れねえな」
「ちょ……ッ、待っておくれ! 狂言誘拐って、つまり繭嬢本人が企てたってことかい?」
帝斗が一等驚いて目を剥いている。鐘崎は防犯カメラの映像を閉じると、自身の推測を話して聞かせた。
また、万が一に備えての防弾ベストや武器などの装備を整える為に、紫月が甲斐甲斐しく鐘崎の支度を整えていく。周や清水らの為のベストなども、手際良くすべて紫月が用意して、装着の補助までをテキパキとこなしていった。
その傍らでは冰も皆の上着を手渡したり、できることを手伝いながら少しでも役に立とうと一生懸命だ。ともすれば危険を伴う心配な状況ではあるが、おろおろとしたりせずに、気丈な様子でしっかりと留守を守る心構えでいる。さすがは裏社会に生きる者の伴侶たちである。
「それじゃ、遼。気をつけてな。氷川もすまない、遼のことをよろしく頼む」
「ああ、任せろ」
「邸には源さんと組員たちを残していく。お前らも気を抜かねえで、ここから出るんじゃねえぞ。何かあれば俺たちの状況は気にせずにすぐに連絡を入れろ」
「分かった。こっちの方は大丈夫だから、とにかくはご令嬢を無事に救出できるよう専念してくれ」
「白龍、鐘崎さん、皆さん、お気をつけて」
しっかり者の嫁たちに見送られながら、鐘崎と周は清水と若い衆数名を伴って邸を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
ホテルに着くと、既に粟津帝斗が待っていて鐘崎らを出迎えてくれた。
「繭嬢がいると思われる部屋は突き止めている。ロビーを見渡せる防犯カメラの映像でも調べたんだが、チェックインをしたのはどうやら繭嬢本人のようだ。カードによる事前決済が行われていて、名義も繭嬢のものだった」
「ということは……犯人に脅されてあの娘が自ら部屋を取ったということか……」
普通に考えればそうなるだろうか。
「ですが、何故ご令嬢はチェックインの際に助けを求めなかったのでしょう? これだけ大勢のスタッフと、ロビーには他のお客さんもいらしたでしょうに」
清水が首を傾げる中、とにかくはその部屋まで行ってみることにした。
「粟津、マスターキーを借りられるか?」
「もちろんだよ。念の為、両隣のスイートも確保してある。他に必要なことがあれば何でも言っておくれ」
「すまない。まずは防犯カメラの映像を見せて欲しい。あの娘と一緒に部屋に入るところが映っていると助かるんだが」
犯人が何名なのか、どういった雰囲気の者なのかが分かれば動きやすいからだ。
「だが、仮にも誘拐だぞ? カメラに映るような低脳とも思えんがな」
周がそう言う傍らで、清水もその通りだとうなずき合っている。
ところがだ。
繭と思わしき女と共に、二人連れの男たちが堂々とスイートルームへと入っていく様子が確認できて、皆は唖然とさせられてしまった。
「何だ、見たところこの娘も怯えてる様子でもねえじゃねえか」
映像を見つめながら首を傾げた周は、この場にそぐわない突飛なことをつぶやいた。
「狂言誘拐じゃねえのか?」
皆が驚きに目を見張る中、鐘崎だけが周同様落ち着いた様子で眉根を寄せていた。
「――かも知れねえな」
「ちょ……ッ、待っておくれ! 狂言誘拐って、つまり繭嬢本人が企てたってことかい?」
帝斗が一等驚いて目を剥いている。鐘崎は防犯カメラの映像を閉じると、自身の推測を話して聞かせた。
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