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厄介な依頼人
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一方、組では清水が三崎財閥のご令嬢・繭と対峙していた。
「お嬢様、わざわざのお運び、恐縮に存じます」
清水が丁重に頭を下げると、繭の方は少々ソワソワとしながら手にしていた菓子折を差し出した。
「先日はありがとうございました。これ、皆さんでどうぞ」
清水とは依頼や華道展でも幾度か顔を合わせているので、繭の方もさほど緊張してはいないようだ。大概の客人は組の門構えを見ただけで引き腰になるのだが、さすがは財閥のお嬢様といったところか。
「ご丁寧に恐縮です。お心遣いは誠に有り難いのですが、既にお父上から報酬は頂戴致しておりますので、それ以外のご厚意はご辞退させていただく決まりになっております」
清水が丁重に断ったが、繭にしてみればせっかく持参した土産の品だ。
「あの……ですが、先日は華道展にいらしていただいてご祝儀まで頂戴していますし、内祝いも兼ねていますので……」
確かに祝儀を持って行ったのはこちらである。清水は迷ったが、内祝いということなら受け取らないのも失礼かと判断した。
「そうですか。では、お言葉に甘えまして有り難く頂戴致します」
清水が受け取ると、繭はホッとしたように溜め息をついた。その後、茶が出されたものの、正直なところ何を話していいやら話題に詰まってしまう。
「あの……それで、今日は遼二さんは……いらっしゃらないんですの?」
菓子折とは別にまだもう一つ、綺麗にラッピングされた大きな箱を抱えながら、鐘崎の姿を探すような素振りでそう問う。やはり目的は若頭かと、溜め息を呑み込みながら清水は冷静に答えてみせた。
「若頭は本日は所用で留守にしておりまして。せっかくお運びいただいたのに申し訳ございません」
「そ、そうなんですか……。あの……お帰りは何時頃になられるか分かりますか?」
「日が落ちるまでには戻るかと存じますが、詳しい時間までは分かりかねます。申し訳ございません」
言葉じりも仕草も至って丁寧ではあるものの、必要以上に余分な会話を振ってこない清水が相手では、実際には取り付く島もないに等しい。繭も決して居心地がいいとはいえない雰囲気に、所在なさげな表情でいた。
それも当然といえばそうか。華道展の礼という大義名分が通用するのも今回限りと分かっているからだ。今日を逃せば、次に鐘崎と会える機会はそうそう巡ってはこないだろう。食事に誘うにしても、その理由を探さねばならない。繭としても簡単に諦め切れないといったところなのだろう。だからといって用が済んだのにずっと居座り続けるわけにもいかない。日が落ちるまでには帰るとのことだが、今は夏場だし、それまでにはまだ数時間もある。
「で、では残念ですが本日はこれで失礼しますが、これを遼二さんに渡していただければと……」
手にしていた大きな箱を清水へと差し出し、仕方なく諦めて席を立とうとしたちょうどその時だった。門が開いて二台の高級車が玄関に着けられる様子が窓越しに見えたと同時に、繭の瞳が期待に見開かれた。
「お嬢様、わざわざのお運び、恐縮に存じます」
清水が丁重に頭を下げると、繭の方は少々ソワソワとしながら手にしていた菓子折を差し出した。
「先日はありがとうございました。これ、皆さんでどうぞ」
清水とは依頼や華道展でも幾度か顔を合わせているので、繭の方もさほど緊張してはいないようだ。大概の客人は組の門構えを見ただけで引き腰になるのだが、さすがは財閥のお嬢様といったところか。
「ご丁寧に恐縮です。お心遣いは誠に有り難いのですが、既にお父上から報酬は頂戴致しておりますので、それ以外のご厚意はご辞退させていただく決まりになっております」
清水が丁重に断ったが、繭にしてみればせっかく持参した土産の品だ。
「あの……ですが、先日は華道展にいらしていただいてご祝儀まで頂戴していますし、内祝いも兼ねていますので……」
確かに祝儀を持って行ったのはこちらである。清水は迷ったが、内祝いということなら受け取らないのも失礼かと判断した。
「そうですか。では、お言葉に甘えまして有り難く頂戴致します」
清水が受け取ると、繭はホッとしたように溜め息をついた。その後、茶が出されたものの、正直なところ何を話していいやら話題に詰まってしまう。
「あの……それで、今日は遼二さんは……いらっしゃらないんですの?」
菓子折とは別にまだもう一つ、綺麗にラッピングされた大きな箱を抱えながら、鐘崎の姿を探すような素振りでそう問う。やはり目的は若頭かと、溜め息を呑み込みながら清水は冷静に答えてみせた。
「若頭は本日は所用で留守にしておりまして。せっかくお運びいただいたのに申し訳ございません」
「そ、そうなんですか……。あの……お帰りは何時頃になられるか分かりますか?」
「日が落ちるまでには戻るかと存じますが、詳しい時間までは分かりかねます。申し訳ございません」
言葉じりも仕草も至って丁寧ではあるものの、必要以上に余分な会話を振ってこない清水が相手では、実際には取り付く島もないに等しい。繭も決して居心地がいいとはいえない雰囲気に、所在なさげな表情でいた。
それも当然といえばそうか。華道展の礼という大義名分が通用するのも今回限りと分かっているからだ。今日を逃せば、次に鐘崎と会える機会はそうそう巡ってはこないだろう。食事に誘うにしても、その理由を探さねばならない。繭としても簡単に諦め切れないといったところなのだろう。だからといって用が済んだのにずっと居座り続けるわけにもいかない。日が落ちるまでには帰るとのことだが、今は夏場だし、それまでにはまだ数時間もある。
「で、では残念ですが本日はこれで失礼しますが、これを遼二さんに渡していただければと……」
手にしていた大きな箱を清水へと差し出し、仕方なく諦めて席を立とうとしたちょうどその時だった。門が開いて二台の高級車が玄関に着けられる様子が窓越しに見えたと同時に、繭の瞳が期待に見開かれた。
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