極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
262 / 1,212
厄介な依頼人

11

しおりを挟む
「今回のようなことは正直なところ想定外です。決して若に落ち度があったというわけではありませんが、こちらでは予想し得ないようなことが起こらないとも限りません」
 それが仕事の上でのトラブルや失態ならば、反省や改善のしようもあるが、今回のように好いた惚れたの感情の話となると防ぎようがない。
「こんな言い方をしては失礼ですが……若は総じて愛想がいいタイプではないと思っております。仕事相手に対しても必要以上に世辞をおっしゃるような方ではありませんし、だからといって無愛想で失礼という意味では決してないのですが……。つまり、今回の仕事でも三崎様のご令嬢に対して誤解を与えるような言動は断じてなかったと存じております。ご令嬢が若に好意を持たれたとしても、それは不可抗力といえます。今後は我々もより一層神経の行き届いたサポートができるよう心掛けて参りますゆえ」
 清水が丁重に決意の言葉を紡ぐ。
「すまんな。お前らにも苦労をかける。これが親父ならもっと上手くあしらっただろうが、俺も精進が必要だってことだ」
「若……」
「よし、それじゃ気持ちを入れ替えて次の仕事に精一杯取り組むとしよう」
 鐘崎はこれでひと段落と思っているようだったが、清水としては今しばらくは警戒しておく必要があるかと踏んでいた。
 そんな清水の予感が的中することになったのは、それから間もなくのこと、華道展から大して日を置かずの内に起こったのだった。

 それはある休日の午後、鐘崎と紫月が揃って組を留守にしている時のことだった。
 若い衆が少々困惑顔で清水の元へと飛んできた。
「清水幹部! あの……ただいま例の娘が若にお会いしたいと言って訪ねて来ているんですが……」
 その報告に清水は書類の整理中だった手をとめると、怪訝そうに眉根を寄せた。
「例のというと、三崎財閥のご令嬢か……? 親父さんもご一緒なのか?」
「いえ、娘が一人です。どうやら送り迎えの車も付けずに電車で出向いて来たらしく……」
「それで用件は? 何だって言ってきているんだ」
「はぁ、何でも華道展に来てもらった礼だとかで、でっけえ手土産を持参してまして……」
「……ご尤もな理由を探すもんだな」
 清水は机から立ち上がると同時に深く溜め息がこぼれるのを抑えられなかった。
「如何致しましょう、邸に入れてもよろしいんでしょうか?」
「仕方がない。追い返すわけにもいかないだろう。あそこの社長には仕事の依頼を受けたことだし、あまり邪険にしては後々のこともある。私が応対に出るから、外玄関に一番近い応接室にお通ししろ」
 スーツの上着を手に取って今一度の溜め息を呑み込む。
 鐘崎組の門構えは、何段階かに分かれていて、内にいくほど親密な関係者が通される仕様となっている。
 外玄関から一番近いところに先ずは応接室、その次は組事務所、その先には第二の応接室と続くのだが、大概の客人は例え信頼の厚い依頼人であってもここまで通されれば重鎮の部類である。それより更に奥には、中庭を経て組の幹部らが庶務をこなす仕事部屋があり、そこには最新のコンピューターやメカニックを配した設備も整っていて、そのまた奥に鐘崎親子の事務室兼書斎――つまりは組長室という並びである。
 鐘崎や紫月らの住居は棟を分けて更にその奥の建物という造りになっていた。中庭には数匹のシェパードが常に放し飼いにされていて、内部へ行くほど通される者もごくごく限られた数人ということになるわけだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...