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厄介な依頼人
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「粟津の兄様ったらエッチなんだからぁ!」
「ほんとね! 際どいお答えだわ」
女たちはヤンヤヤンヤと興奮気味で笑い合うと、待ち切れないといったふうに今度は鐘崎に視線を向けた。
「ねえねえ、鐘崎さんはどうかしら?」
「あまり考え込まないで、第一印象でパッと思いついた人でよろしいのよ!」
「はぁ……」
正直なところ面倒と言えなくもないが、これも付き合いの一環である。致し方なく、鐘崎は言われた通りに思い浮かんだ名前を挙げた。
「そうですね、赤は氷川、白は冰。青は源さんかな。黒は親父で、紫は――」
鐘崎はそこで一旦言葉をとめると、フッとやわらかに瞳を細めた。”紫”で思い付くのは言わずもがな――伴侶の紫月以外にないからだ。
だが、ここで愛しい者の名前をひけらかす必要はないと思ってか、無意識に言葉に出さずに呑み込んだのだ。ただ、脳裏に思い浮かべただけで表情には愛しい想いが表れてしまったのか、案外鋭い女たちの関心をそそってしまったようだ。
「やだぁ、鐘崎さん! 紫はどなたなんですかー?」
「そうよ、もったいぶらずに教えてくださいな!」
急かされたが、ここで素直に教える義理もない。鐘崎はスマートにごまかしたのだった。
「紫は――まあ、該当なしということにしておきましょう。黄色も思い当たらないかな」
「ああーん、もう焦らすなんて憎らしいんだからぁ!」
女たちにとっては初めて聞く名前ばかりであるが、それがどんな人物なのかは結果を暴露しながら訊けばいいと思っているようだ。とにかくは鐘崎とこうして一緒の話題で盛り上がれることが楽しくて仕方ないのだろう。
「それで、結果はどうなんだい?」
帝斗が笑いながら突っ込むと、女たちは得意げに答えを披露してみせた。
「赤は結婚したい人、白は憧れの人。黒は絶対的存在の人で、青は恋人にしたい人。紫は……性的欲求を満たしたい相手!」
キャアー! と湧きながら盛り上がる。
「粟津の兄様は当分ご結婚は先のようね! だって赤のイメージの人はいらっしゃらないってことですもの!」
「おいおい、そいつは酷い言い草じゃないか。本当に当たるのかい? この占い」
「もちろんよ! 残念でしたわね、兄様!」
皆で帝斗をからかって遊ぶ中、女たちの興味の本命は鐘崎である。
「じゃあ、鐘崎さんの”赤”のお相手は? どんな方ですの?」
もしも鐘崎が”赤のイメージは繭だ”と答えれば、相思相愛と囃し立てて盛り上がるつもりだったのだが、彼が挙げたのは氷川という知らない名前だった。その氷川とはいったいどんな人物なのだろうと興味津々なのである。もしもそれが女性だったらと思うと、繭の手前であるし、分が悪いと思う反面、心の隅では期待感が無いとはいえないのは悲しきかな、本能だろうか。
「ほんとね! 際どいお答えだわ」
女たちはヤンヤヤンヤと興奮気味で笑い合うと、待ち切れないといったふうに今度は鐘崎に視線を向けた。
「ねえねえ、鐘崎さんはどうかしら?」
「あまり考え込まないで、第一印象でパッと思いついた人でよろしいのよ!」
「はぁ……」
正直なところ面倒と言えなくもないが、これも付き合いの一環である。致し方なく、鐘崎は言われた通りに思い浮かんだ名前を挙げた。
「そうですね、赤は氷川、白は冰。青は源さんかな。黒は親父で、紫は――」
鐘崎はそこで一旦言葉をとめると、フッとやわらかに瞳を細めた。”紫”で思い付くのは言わずもがな――伴侶の紫月以外にないからだ。
だが、ここで愛しい者の名前をひけらかす必要はないと思ってか、無意識に言葉に出さずに呑み込んだのだ。ただ、脳裏に思い浮かべただけで表情には愛しい想いが表れてしまったのか、案外鋭い女たちの関心をそそってしまったようだ。
「やだぁ、鐘崎さん! 紫はどなたなんですかー?」
「そうよ、もったいぶらずに教えてくださいな!」
急かされたが、ここで素直に教える義理もない。鐘崎はスマートにごまかしたのだった。
「紫は――まあ、該当なしということにしておきましょう。黄色も思い当たらないかな」
「ああーん、もう焦らすなんて憎らしいんだからぁ!」
女たちにとっては初めて聞く名前ばかりであるが、それがどんな人物なのかは結果を暴露しながら訊けばいいと思っているようだ。とにかくは鐘崎とこうして一緒の話題で盛り上がれることが楽しくて仕方ないのだろう。
「それで、結果はどうなんだい?」
帝斗が笑いながら突っ込むと、女たちは得意げに答えを披露してみせた。
「赤は結婚したい人、白は憧れの人。黒は絶対的存在の人で、青は恋人にしたい人。紫は……性的欲求を満たしたい相手!」
キャアー! と湧きながら盛り上がる。
「粟津の兄様は当分ご結婚は先のようね! だって赤のイメージの人はいらっしゃらないってことですもの!」
「おいおい、そいつは酷い言い草じゃないか。本当に当たるのかい? この占い」
「もちろんよ! 残念でしたわね、兄様!」
皆で帝斗をからかって遊ぶ中、女たちの興味の本命は鐘崎である。
「じゃあ、鐘崎さんの”赤”のお相手は? どんな方ですの?」
もしも鐘崎が”赤のイメージは繭だ”と答えれば、相思相愛と囃し立てて盛り上がるつもりだったのだが、彼が挙げたのは氷川という知らない名前だった。その氷川とはいったいどんな人物なのだろうと興味津々なのである。もしもそれが女性だったらと思うと、繭の手前であるし、分が悪いと思う反面、心の隅では期待感が無いとはいえないのは悲しきかな、本能だろうか。
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