極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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 帝斗と呼ばれた男は朗らかな調子で受け応えながらも、周囲にいた繭らご令嬢連中にも和やかな笑顔で会釈をしてみせた。年頃の女の輪の中に物怖じせずにスッと溶け込んでくるスマートさが場慣れした様子を窺わせる。
 すると、ご令嬢たちの内の一人がおずおずと話に割って入った。
「あのー……こちらは粟津さんのお知り合いでもいらっしゃるの?」
 どうやらご令嬢連中も帝斗とは顔見知りであるらしい。それもそのはずだ。粟津家といえば、国内どころか海外でもその名を轟かせている大財閥だからだ。帝斗はそこの御曹司である為、同じく財閥系のご令嬢たちも彼のことを知らない者はいないというわけだった。
「まあ! 粟津の兄様ともお知り合いでしたのね!」
「でしたら兄様からもご紹介してくださらない?」
 帝斗という顔見知りの登場で、それまでの緊張が解けたわけか、ご令嬢たちが一気に華やぎ始める。皆一様に鐘崎と早く話をしたくて仕方がないといった調子で、今度は帝斗を急っつき始めた。
「何だい、お前さんたち。そんなに慌てなさんな。皆、遼二とは今日が初めてかい?」
「ええ、とっても素敵な殿方ですのね。ちょうど今、こちらの繭さんからご紹介いただいたところでしたのよ」
「何だ、繭嬢のお知り合いかい?」
 帝斗が鐘崎に向かって訊くと、
「ああ。つい先日、こちらのお嬢さんのお父上から仕事のご依頼をいただいたご縁でな」
 簡単に経緯を説明してみせた。
「そうだったのか。だったらついでに僕の生け花も見ていっておくれよ」
 帝斗は意気揚々と鐘崎に向かって微笑んだ。
「僕の生け花って……お前も出展してるのか?」
「まあね。この展覧会の協賛がてら出品させてもらっているのさ」
 つまりは展覧会にかかる費用などを粟津財閥が出資しているわけだろう。確かにこれだけの大きな会場を借り切るだけでも結構な金額が飛びそうだ。
 それにしても、さすがは大財閥の粟津家だ。しかも、まさか帝斗本人までもが華道を嗜んでいるとは意外であった。
「――お前が生け花をな」
「そう捨てたもんでもないのさ。僕が華道を始めたのはここ一年くらいで日は浅いんだけれど、なかなかに楽しいものだよ。自分で言うのもなんだけど、筋は悪くないと思うんだがね」
「おいおい、何事も自信たっぷりなのは相変わらずだな」
「まあ、そこが僕の取り柄というものさ」
「確かに」
 すっかり男同士で盛り上がっている様子に、繭はむろんのこと、ご令嬢たちも不満げだ。
「ねえ、粟津の兄様ったら! いつまでも独り占めは無粋ですわ。私たちにもお話させてくださらない?」
「そうよ、そうよ。それに、こちらの鐘崎さんは繭さんの……」
 ワイのワイのと騒がれて、帝斗は苦笑させられてしまった。
「ああ、すまないね。この遼二とは小さい頃からの知り合いでね。僕の父と遼二のお父上が懇意にしていた関係で、僕らもたまに会って遊ぶ仲だったのさ」
「まあ、そうでしたの!」
「それじゃあ、幼馴染みっていうことかしら?」
「そんなところかな。遼二、このお嬢さん方は生け花教室で一緒に学ばせてもらってるお仲間さ。皆さんのお父上とは仕事の上でもお付き合いさせていただいてるんだ」
 帝斗がそう紹介すると、ご令嬢たちは間髪入れずに我も我もと次々に自己紹介を始めた。
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