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恋敵
57(恋敵 完結)
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「ああ。それにあゆみがいたから白龍っていう可愛い子が生まれたんだし、こうして冰と出会えたのもあゆみのお陰だってな」
あゆみというのは周の実母の名前だ。継母の香蘭はこれまでも寛大な心で接してくれていたが、そんなふうに思ってもらえることは周にとっても実母のあゆみにとっても言葉にできないくらい有り難いことだった。
「継母には本当に……どう感謝してもしきれねえ。実母のことにしてもそうだが、俺や冰に対しても本物の家族以上に心を掛けてくれる。実母ももちろん大事には違いねえが、あの人――香蘭さんは俺にとって世界一誇れる大切なお袋だと思っている」
周がそう言った傍らで、鐘崎は続けた。
「これは俺の想像に過ぎんが――もしかしたら冰も今回のことであの時の香蘭さんの話を思い出したのかも知れねえと思ってな。唐静雨が本当にお前の元恋人で、もしもお前にとって今でも大事な存在であったならと考えたのかも知れん。冰は元々やさしい性質だから、単に困っている女を見過ごせなかっただけなのかも知れねえが、仮にお前が彼女のことを大事に思っているのなら自分もその思いに寄り添おうとしたんじゃねえかって」
鐘崎の仮説に、周は驚いたように瞳を見開いた。
「……冰が……か?」
「まあ、これは完全に俺の私見だが。ただ、香蘭さんがあれほど冰を大事に思うのも、そんな冰の思いを無意識に感じ取っていたのかもとな。いずれにせよ、お前さんと冰は本当に素晴らしい伴侶だと心底そう思うぜ」
鐘崎の言葉が心に沁みる。周は思わず目頭が熱くなるくらいに感動で心が震えるようだった。
「そうか……。そうなのかも知れねえ。俺はお袋たちが冰とそんな話をしていたというのは今初めて知ったが、本当に……俺は幸せ者だと痛感させられる。継母の心遣いも冰のやさしさも……俺なんぞには勿体ねえくらいだ。俺は冰を、あいつを生涯大切にする。さっき親父にも話したが、明日入籍を済ませようと思っている。冰に伴侶の証となる周家の印入りの指輪を贈って、一生涯大事にすると誓うつもりだ」
「そうか。俺も紫月も心からお前たちの門出を祝いたい。紫月のことだ、どうせ入籍の手続きや指輪選びにも立ち会いたいと言うだろうからな。一緒について行っても構わねえか?」
「もちろんだ。冰も喜ぶだろう」
周はそう言ってうなずくと、
「カネ、お前はいつも大事なことを気付かせてくれる。俺には考えも及ばねえような大事なことをだ。冰同様、俺はお前や一之宮という友を持てたことを誇りに思ってるぜ」
「ああ、俺もだ。お前と冰は俺と紫月にとってかけがえのない一生の友人だ。これからもよろしく頼む」
二人は真剣にそう言い合ってから、照れたように互いの肩を突き合った。
「長い人生だ。俺にもお前にも――この先も今回のようなことや、もっと面倒な事態が立ちはだかることがあるかも知れねえ。そんな時は互いがいるってことを忘れずに共に乗り越えていければと思う」
「ああ、そうだな。頼りにしてるぜ」
ガッシリと大きな掌を握り合う。そんな二人の友情を讃え見守るかのように、眼下には香港の街の煌めきが宝石を敷き詰めた帯のように伸びては地平線の彼方まで瞬いていた。
こうして周の学生時代の後輩だった女の登場で始まった騒動は、恋人たちの、そして友や家族との絆を一層深めてひと段落がついた。当初予定していた披露目の宴も日程が繰り上げられ、ひと月後の真夏を迎える頃に行われることが決まった。
周囲の人々のあふれる愛情に包まれながら、周と冰の新たな門出が始まりを告げたのだった。
恋敵 - FIN -
あゆみというのは周の実母の名前だ。継母の香蘭はこれまでも寛大な心で接してくれていたが、そんなふうに思ってもらえることは周にとっても実母のあゆみにとっても言葉にできないくらい有り難いことだった。
「継母には本当に……どう感謝してもしきれねえ。実母のことにしてもそうだが、俺や冰に対しても本物の家族以上に心を掛けてくれる。実母ももちろん大事には違いねえが、あの人――香蘭さんは俺にとって世界一誇れる大切なお袋だと思っている」
周がそう言った傍らで、鐘崎は続けた。
「これは俺の想像に過ぎんが――もしかしたら冰も今回のことであの時の香蘭さんの話を思い出したのかも知れねえと思ってな。唐静雨が本当にお前の元恋人で、もしもお前にとって今でも大事な存在であったならと考えたのかも知れん。冰は元々やさしい性質だから、単に困っている女を見過ごせなかっただけなのかも知れねえが、仮にお前が彼女のことを大事に思っているのなら自分もその思いに寄り添おうとしたんじゃねえかって」
鐘崎の仮説に、周は驚いたように瞳を見開いた。
「……冰が……か?」
「まあ、これは完全に俺の私見だが。ただ、香蘭さんがあれほど冰を大事に思うのも、そんな冰の思いを無意識に感じ取っていたのかもとな。いずれにせよ、お前さんと冰は本当に素晴らしい伴侶だと心底そう思うぜ」
鐘崎の言葉が心に沁みる。周は思わず目頭が熱くなるくらいに感動で心が震えるようだった。
「そうか……。そうなのかも知れねえ。俺はお袋たちが冰とそんな話をしていたというのは今初めて知ったが、本当に……俺は幸せ者だと痛感させられる。継母の心遣いも冰のやさしさも……俺なんぞには勿体ねえくらいだ。俺は冰を、あいつを生涯大切にする。さっき親父にも話したが、明日入籍を済ませようと思っている。冰に伴侶の証となる周家の印入りの指輪を贈って、一生涯大事にすると誓うつもりだ」
「そうか。俺も紫月も心からお前たちの門出を祝いたい。紫月のことだ、どうせ入籍の手続きや指輪選びにも立ち会いたいと言うだろうからな。一緒について行っても構わねえか?」
「もちろんだ。冰も喜ぶだろう」
周はそう言ってうなずくと、
「カネ、お前はいつも大事なことを気付かせてくれる。俺には考えも及ばねえような大事なことをだ。冰同様、俺はお前や一之宮という友を持てたことを誇りに思ってるぜ」
「ああ、俺もだ。お前と冰は俺と紫月にとってかけがえのない一生の友人だ。これからもよろしく頼む」
二人は真剣にそう言い合ってから、照れたように互いの肩を突き合った。
「長い人生だ。俺にもお前にも――この先も今回のようなことや、もっと面倒な事態が立ちはだかることがあるかも知れねえ。そんな時は互いがいるってことを忘れずに共に乗り越えていければと思う」
「ああ、そうだな。頼りにしてるぜ」
ガッシリと大きな掌を握り合う。そんな二人の友情を讃え見守るかのように、眼下には香港の街の煌めきが宝石を敷き詰めた帯のように伸びては地平線の彼方まで瞬いていた。
こうして周の学生時代の後輩だった女の登場で始まった騒動は、恋人たちの、そして友や家族との絆を一層深めてひと段落がついた。当初予定していた披露目の宴も日程が繰り上げられ、ひと月後の真夏を迎える頃に行われることが決まった。
周囲の人々のあふれる愛情に包まれながら、周と冰の新たな門出が始まりを告げたのだった。
恋敵 - FIN -
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