236 / 1,212
恋敵
42
しおりを挟む
「爺やは黙っててちょうだいな! アタクシのお小遣いをどう使おうとアタクシの自由よ! お父様には関係なくてよ! それに……もしも勝てば三十倍以上になるのよ? それこそ映画みたいで素敵じゃないの!」
「そんな……お嬢様……! 映画とは違うのですぞ! そのような夢みたいなお話があるわけございません!」
「ああ、もううるさい爺やだこと! いいからあなたは黙っていらっしゃい! ディーラーさんも……早く始めてちょうだいな!」
ディーラーはニヤニヤとしながら、『それでは――』と言ってホイールに手を掛けた。
スマートな手つきでボールが盤の上に放たれると、その様子を見ていたギャラリーたちも固唾を呑んだように静寂が立ち込めた。
冰の視線が鋭く光る。だが、それはほんの一瞬のことで、周囲の誰にも気付かれない程度であった。
「ではお嬢様、どうぞお好きな位置を」
「そうね、じゃあ……赤の九番にするわ! 可愛らしくてアタクシの今日のドレスにもピッタリじゃなくて? きっと幸運の番号よ」
冰が戸惑いながらも気丈な感じでそう告げると、ディーラーはまたしてもニヤりと口角を上げた。つまり、彼が狙った位置とは違う番号だったからだ。
(ふん! バカな娘だ。全部スられるとも知らねえで、意固地になってこんな大金を張りやがって。これで俺の立場もより一層上がるというものだ)
心の中でほくそ笑み、『残念でございました』と告げる瞬間をワクワクとしながら待っていた。
ところが――だ。
ホイールの回転が止まると、なんと冰が言った赤の九番にボールがピタリとはまってしまったのだ。
周囲で固唾を呑んでいた客たちからはどよめきの後で大歓声が上がる大騒ぎと相成った。
「うっそ……。あら、いやだ……本当に勝っちゃったわアタクシ……!」
冰がこれみよがしに驚いてみせる傍らでは、爺や役の真田も歓喜に目を剥いている。
「お、お、お嬢様! なんとこれは……奇跡が起きたのでございますかな!」
「……ホントだわ! 奇跡って本当にあるのね……。っていうよりも……これは実力よね? アタクシの目利きじゃなくて?」
「そ、そうでございますな! さすがはお嬢様でいらっしゃいます!」
「だから言ったじゃない! いったいいくらになったのかしら? すごいわ、アタクシ! なんてツイているんでしょ! きっと神様が味方してくださったのだわ!」
大喜びする冰の目の前で、ディーラーは真っ青になりながら唇を噛み締めていた。
「バカな……そんなはずは……」
それもそのはずである。ディーラーにしてみれば、自分が狙った位置とは別の枠でボールが止まってしまったからだった。
(こ、こんなはずでは……)
だが、実はホイールにボールが投げ込まれた時点で、冰には彼が狙った位置が読めていたのだ。ただ、その時のわずかな手のブレもまた見切っていた冰であった。直前の交渉と大勢の観客たちの視線に押されてか、彼が絶妙に指の動きをミスしたことに気付いたからだった。
とにかくは”お嬢様”冰の大勝ちである。見ていた客たちの歓喜はおさまらず、店側も何事かと黒服や支配人までもが集まり出してきた。
ディーラーはますます蒼くなり、どうにかしてこの負けを覆さんと焦燥感に駆られていったようだ。
「そんな……お嬢様……! 映画とは違うのですぞ! そのような夢みたいなお話があるわけございません!」
「ああ、もううるさい爺やだこと! いいからあなたは黙っていらっしゃい! ディーラーさんも……早く始めてちょうだいな!」
ディーラーはニヤニヤとしながら、『それでは――』と言ってホイールに手を掛けた。
スマートな手つきでボールが盤の上に放たれると、その様子を見ていたギャラリーたちも固唾を呑んだように静寂が立ち込めた。
冰の視線が鋭く光る。だが、それはほんの一瞬のことで、周囲の誰にも気付かれない程度であった。
「ではお嬢様、どうぞお好きな位置を」
「そうね、じゃあ……赤の九番にするわ! 可愛らしくてアタクシの今日のドレスにもピッタリじゃなくて? きっと幸運の番号よ」
冰が戸惑いながらも気丈な感じでそう告げると、ディーラーはまたしてもニヤりと口角を上げた。つまり、彼が狙った位置とは違う番号だったからだ。
(ふん! バカな娘だ。全部スられるとも知らねえで、意固地になってこんな大金を張りやがって。これで俺の立場もより一層上がるというものだ)
心の中でほくそ笑み、『残念でございました』と告げる瞬間をワクワクとしながら待っていた。
ところが――だ。
ホイールの回転が止まると、なんと冰が言った赤の九番にボールがピタリとはまってしまったのだ。
周囲で固唾を呑んでいた客たちからはどよめきの後で大歓声が上がる大騒ぎと相成った。
「うっそ……。あら、いやだ……本当に勝っちゃったわアタクシ……!」
冰がこれみよがしに驚いてみせる傍らでは、爺や役の真田も歓喜に目を剥いている。
「お、お、お嬢様! なんとこれは……奇跡が起きたのでございますかな!」
「……ホントだわ! 奇跡って本当にあるのね……。っていうよりも……これは実力よね? アタクシの目利きじゃなくて?」
「そ、そうでございますな! さすがはお嬢様でいらっしゃいます!」
「だから言ったじゃない! いったいいくらになったのかしら? すごいわ、アタクシ! なんてツイているんでしょ! きっと神様が味方してくださったのだわ!」
大喜びする冰の目の前で、ディーラーは真っ青になりながら唇を噛み締めていた。
「バカな……そんなはずは……」
それもそのはずである。ディーラーにしてみれば、自分が狙った位置とは別の枠でボールが止まってしまったからだった。
(こ、こんなはずでは……)
だが、実はホイールにボールが投げ込まれた時点で、冰には彼が狙った位置が読めていたのだ。ただ、その時のわずかな手のブレもまた見切っていた冰であった。直前の交渉と大勢の観客たちの視線に押されてか、彼が絶妙に指の動きをミスしたことに気付いたからだった。
とにかくは”お嬢様”冰の大勝ちである。見ていた客たちの歓喜はおさまらず、店側も何事かと黒服や支配人までもが集まり出してきた。
ディーラーはますます蒼くなり、どうにかしてこの負けを覆さんと焦燥感に駆られていったようだ。
15
お気に入りに追加
871
あなたにおすすめの小説
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる