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恋敵
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「とにかく! 今更誰のせいだと言ったところで始まらん。お前にはどうあっても全額を返済してもらうからな! 既に働き口も用意してやっている。今夜にも相手方に引き渡す予定だから、そのつもりでいるんだな」
社長という男が言い捨てると、女は刃向かってもムダだと思ったのか、その場で泣き崩れてしまった。
その様子を見ていた冰は、恐る恐るといった調子ながら社長に向かって切り出した。
「あの……働き口とおっしゃいますが……それはどういったところなんですか?」
来る途中の機内で男たちが話していた通り、本当に闇市で身売りさせられるようなことになったらと思うと、どうにも不安で仕方なかったのだ。
「どういったところと言われてもな。まあ、普通に勤めるよりは手っ取り早く稼げる仕事といったところかね。この女には色を売って稼いでもらう。それだって何年もかかるんだ。まったく、とんだ災難だよ!」
やはりか。いくら女に非があるといえど、それはあまりな仕打ちと思ってしまうのは冰のやさしさ故だろうか。
「あの……他に方法はないんでしょうか? 例えば被害届けを出すなりして……彼女の言い分もきちんと聞いてもらって、公正に判断してもらえるような機関に任せるとか……」
「つまり、なんだね? 警察にでも届けろということかね?」
「そういった選択肢もあると思うのですが……。それでしたら社長様と彼女の双方の言い分を聞いて、本当に横領に当たるのかということも調べていただけるんじゃないかと……」
冰が遠慮がちながらも提案すると、社長は鼻で笑うようにこう言い放った。
「冗談じゃない。警察などに言ったところで金が返ってくると思うかね? 通りいっぺんに話を聞いて被害届を受け取るだけだ。結局金は戻らず終いだ。誰がそんな得にもならないことをするかね。それよりは闇市に堕として、例え微々たるもんでも取り戻したいと思うのが当然だろうが」
社長の立場に立って考えるならば、確かにそうかも知れない。だが、やはり彼女が身売りさせられると思うと、冰は心が痛んでならなかった。
「そんな心配をするということは、やはりキミらはこの女の友達か何かかね? 何なら、この女の横領分をキミが肩代わりしてくれても構わないがね。私としては金さえ戻ればとりあえずのところ文句はないんだ。腹立たしいことに変わりはないが、全額返済してくれるというならこれ以上大事にはしないでやってもいい」
だが、若いキミに肩代わりすることなど到底不可能だろうと言わんばかりに社長は鼻で笑った。
「まあ、いい。私はこれからラウンジで朝食をとるが、キミらも一緒にどうだね? 今時、友人思いの正義感があることには感心だ。キミらのことをどうするかも決めなきゃならないし、何よりもう少しキミと話をしてみたくなってね」
思い掛けず食事に誘われて、冰は瞳を白黒させてしまった。
社長という男が言い捨てると、女は刃向かってもムダだと思ったのか、その場で泣き崩れてしまった。
その様子を見ていた冰は、恐る恐るといった調子ながら社長に向かって切り出した。
「あの……働き口とおっしゃいますが……それはどういったところなんですか?」
来る途中の機内で男たちが話していた通り、本当に闇市で身売りさせられるようなことになったらと思うと、どうにも不安で仕方なかったのだ。
「どういったところと言われてもな。まあ、普通に勤めるよりは手っ取り早く稼げる仕事といったところかね。この女には色を売って稼いでもらう。それだって何年もかかるんだ。まったく、とんだ災難だよ!」
やはりか。いくら女に非があるといえど、それはあまりな仕打ちと思ってしまうのは冰のやさしさ故だろうか。
「あの……他に方法はないんでしょうか? 例えば被害届けを出すなりして……彼女の言い分もきちんと聞いてもらって、公正に判断してもらえるような機関に任せるとか……」
「つまり、なんだね? 警察にでも届けろということかね?」
「そういった選択肢もあると思うのですが……。それでしたら社長様と彼女の双方の言い分を聞いて、本当に横領に当たるのかということも調べていただけるんじゃないかと……」
冰が遠慮がちながらも提案すると、社長は鼻で笑うようにこう言い放った。
「冗談じゃない。警察などに言ったところで金が返ってくると思うかね? 通りいっぺんに話を聞いて被害届を受け取るだけだ。結局金は戻らず終いだ。誰がそんな得にもならないことをするかね。それよりは闇市に堕として、例え微々たるもんでも取り戻したいと思うのが当然だろうが」
社長の立場に立って考えるならば、確かにそうかも知れない。だが、やはり彼女が身売りさせられると思うと、冰は心が痛んでならなかった。
「そんな心配をするということは、やはりキミらはこの女の友達か何かかね? 何なら、この女の横領分をキミが肩代わりしてくれても構わないがね。私としては金さえ戻ればとりあえずのところ文句はないんだ。腹立たしいことに変わりはないが、全額返済してくれるというならこれ以上大事にはしないでやってもいい」
だが、若いキミに肩代わりすることなど到底不可能だろうと言わんばかりに社長は鼻で笑った。
「まあ、いい。私はこれからラウンジで朝食をとるが、キミらも一緒にどうだね? 今時、友人思いの正義感があることには感心だ。キミらのことをどうするかも決めなきゃならないし、何よりもう少しキミと話をしてみたくなってね」
思い掛けず食事に誘われて、冰は瞳を白黒させてしまった。
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