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恋敵
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そうして周らが日本を飛び立とうとしていた頃、紫月と冰の方は男たちに連れられてマカオのホテルに到着していた。
[社長がおいでになるまでここで待機だ。おとなしくしてろよ]
二人が押し込まれたのはスタンダードな造りのツインルームだった。女の方はどうやら別の部屋で待機させられるらしい。窓辺に寄ってカーテンを開けると、初夏の陽射しが燦々と降り注ぐマカオの街並みが見下ろせた。
「うっはー、いい天気だ。なーんか観光に出掛けたくなっちまうなぁ」
相変わらずに暢気な紫月の背中を見つめながら、冰も思わず笑みを誘われる。部屋の外には当然見張りがついているのだろうが、それも一人か二人であろう。紫月の武術をもってすれば、逃げるのには絶好のチャンスといえる。
「脱出って手もあるけど……ま、ここはおとなしく待機って選択だろうな」
紫月が笑う。
確かにその通りなのだ。今なら割合難なく逃げられるだろうが、そうなると女を置いていくことになる。二人にとっては関係のない女といえど、冰の性質からすれば、周の元恋人だという彼女を見捨てることができないだろうと思うからだ。
「すみません、紫月さん……。せっかくのチャンスなのに」
「いや、全然。逃げる機会ならまた巡ってくるさ。今がその時じゃねえってことだ」
ファンキーにウィンクを飛ばしながらそう言ってくれる紫月に、冰は申し訳ないと思いつつも有り難い思いでいっぱいだった。
それから小一時間待たされた後、迎えの男がやって来た。どうやら社長というのが到着したようだ。二人はまた別の部屋に連れて行かれたが、今度は割合大きなスイートタイプの客室だった。そこには例の女もいて、社長らしき中年の恰幅がいい男の前で小さく肩を丸めて座らされていた。
紫月は冰をかばうように側に立ち、いつ何時どの方向から攻撃を受けたとしても応戦できるようにと気を配る。周も鐘崎もいない今、冰を守るのは自分の役目と心得ているからだ。
だが、心配をよそに、敵は危害を加えるつもりはないらしい。どうやら思っていたよりも案外まともというか、いわば裏社会の人間ではないようだった。冰が機内で聞きつけてきた通り、本当に一般企業の社長と社員であるらしい。
「キミたちがこの女と一緒に食事をしていたという若者か。随分とまた邪魔をしてくれたようだが、いったいどういう関係なのかね?」
社長という男が怪訝そうにしながらも、溜め息まじりの様子でそう問う。
「いや、どうって言われても……まあ、成り行きというか」
確かにそうとしか答えようがない。
「まあいい。この女と一緒にいたということは、まったくの無関係でもないということだろう?」
「はぁ……いや、まあ……」
(無関係っちゃ、無関係なんだけどな……)
だが、素直にこの女との関係を言ったところで信じてはもらえないだろう。それ以前に説明のしようがないといった方が正しいか。紫月が曖昧な返事を繰り返す中、社長という男が続けた。
「この女には我が社から横領した金をすべて返済しきれるまで働いてもらうことになるが、それにしては金額が膨大でね。キミらも知り合いだというのなら、少し応援してもらえやしないかね?」
寝耳に水の話だが、紫月はとにかくもう少し詳しく状況を尋ねてみることにした。
[社長がおいでになるまでここで待機だ。おとなしくしてろよ]
二人が押し込まれたのはスタンダードな造りのツインルームだった。女の方はどうやら別の部屋で待機させられるらしい。窓辺に寄ってカーテンを開けると、初夏の陽射しが燦々と降り注ぐマカオの街並みが見下ろせた。
「うっはー、いい天気だ。なーんか観光に出掛けたくなっちまうなぁ」
相変わらずに暢気な紫月の背中を見つめながら、冰も思わず笑みを誘われる。部屋の外には当然見張りがついているのだろうが、それも一人か二人であろう。紫月の武術をもってすれば、逃げるのには絶好のチャンスといえる。
「脱出って手もあるけど……ま、ここはおとなしく待機って選択だろうな」
紫月が笑う。
確かにその通りなのだ。今なら割合難なく逃げられるだろうが、そうなると女を置いていくことになる。二人にとっては関係のない女といえど、冰の性質からすれば、周の元恋人だという彼女を見捨てることができないだろうと思うからだ。
「すみません、紫月さん……。せっかくのチャンスなのに」
「いや、全然。逃げる機会ならまた巡ってくるさ。今がその時じゃねえってことだ」
ファンキーにウィンクを飛ばしながらそう言ってくれる紫月に、冰は申し訳ないと思いつつも有り難い思いでいっぱいだった。
それから小一時間待たされた後、迎えの男がやって来た。どうやら社長というのが到着したようだ。二人はまた別の部屋に連れて行かれたが、今度は割合大きなスイートタイプの客室だった。そこには例の女もいて、社長らしき中年の恰幅がいい男の前で小さく肩を丸めて座らされていた。
紫月は冰をかばうように側に立ち、いつ何時どの方向から攻撃を受けたとしても応戦できるようにと気を配る。周も鐘崎もいない今、冰を守るのは自分の役目と心得ているからだ。
だが、心配をよそに、敵は危害を加えるつもりはないらしい。どうやら思っていたよりも案外まともというか、いわば裏社会の人間ではないようだった。冰が機内で聞きつけてきた通り、本当に一般企業の社長と社員であるらしい。
「キミたちがこの女と一緒に食事をしていたという若者か。随分とまた邪魔をしてくれたようだが、いったいどういう関係なのかね?」
社長という男が怪訝そうにしながらも、溜め息まじりの様子でそう問う。
「いや、どうって言われても……まあ、成り行きというか」
確かにそうとしか答えようがない。
「まあいい。この女と一緒にいたということは、まったくの無関係でもないということだろう?」
「はぁ……いや、まあ……」
(無関係っちゃ、無関係なんだけどな……)
だが、素直にこの女との関係を言ったところで信じてはもらえないだろう。それ以前に説明のしようがないといった方が正しいか。紫月が曖昧な返事を繰り返す中、社長という男が続けた。
「この女には我が社から横領した金をすべて返済しきれるまで働いてもらうことになるが、それにしては金額が膨大でね。キミらも知り合いだというのなら、少し応援してもらえやしないかね?」
寝耳に水の話だが、紫月はとにかくもう少し詳しく状況を尋ねてみることにした。
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