極道恋事情

一園木蓮

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恋敵

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「ああ、それな。遼と俺は生まれた時からの幼馴染みでさ、アイツん家は親父さんの仕事柄、外国語は必須って感じで育ったんだよな。こーんな小っせえガキん頃から多国語を覚えさせられてたアイツを見ててさ、俺もよく付き合って一緒に広東語とか英語とかで会話するようになってたんだ」
「そうだったんですね! そんな小さい頃から……!」
「俺は特に覚える必要もねえし、使うこともねえわけだから。ほんっとに付き合い程度の遊び半分だったな。けど、遼は違ってさ。例えば仕事がらみで逆恨みに遭ったとするだろ? 相手にとっちゃ親父さんが目当てなんだけど、ガキの遼二を人質にとって拉致られたりした場合、それが外国人ってことも有り得る世界なわけだよ。そういう時に相手の会話を聞き取れねえと命を守れないっつって、スパルタってくらいの勢いで仕込まれてた。アイツも気は強かったし根性もあったと思うけど、それでもたまにあんまりに厳しくされて、悔しくて泣いてたこともあったっけな」
 鐘崎の父親の仕事からすればそれもうなずける話である。スパルタになるのも、教育以前に命にかかわってくる世界だからだ。
「でさ、その頃から何となく思ってたんだ。俺はこいつと一生一緒に生きてくんだって――心のどっかで感じてたんだな。だから遼がやらされてる外国語も……俺も一緒に覚えなきゃいけねんだって思っててさ。まだあいつのことを好きとか嫌いとか、そういう感情も分かんねえガキの頃だったんだけどね」
 きっとその頃から意識せずとも本能で互いを生涯の伴侶と思っていたのかも知れない。冰はそう感じていた。
「運命――だったんですね。鐘崎さんと紫月さんも」
「かもなぁ」
 紫月は懐かしがって笑ったが、話に聞くのとは違って、幼い子供の内からたくさんの修行を積まされてきた鐘崎と、その彼に寄り添って一生懸命外国語を身につけようとしてきた紫月の努力を思えば、心から尊敬の念を感じずにはいられなかった。
「でも鐘崎さんも紫月さんもすごいですよ! 外国語の他にも武術まで身につけておられるんですもん」
「まあ、俺ン家は道場だったからさ。そっちの方はそれこそ雛の刷り込みっての? 物心ついた時には当たり前になってたなぁ。遼もガキん頃はウチの道場に通って来てたこともあったけど、中学に上がる頃にはもっと本格的な――傭兵上がりのようなプロの師匠に教わるようになってたな。だから俺とは技の使い方からして違うっていうかさ。格段にあいつの方が強いわけよ」
「はぁ、すごいですね……! 俺なんか武道の方はからっきしダメです。育ててくれた黄のじいちゃんからは、男の子なんだし、少しは腕っ節の方も鍛えなきゃダメだって言われてたんですけどね」
「けど、冰君はディーラーの特訓でそれこそ大変だったんじゃね? 何つっても神業だもんな!」
 そんな話をしていると、先程朝食を運んできた男が再びやって来た。
[おい、メシは済んだのか? あと五分で着陸態勢に入るからこっちへ来いってよ]
 どうやらシートベルトが使える椅子付きの部屋へと移されるようだ。男に連れられていくと、そこには昨夜の女の姿もあった。
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