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恋敵
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「よし――早朝一番で香港へ飛ぼう。女の正体も向こうでの方が捜しやすいかも知れん」
「分かった。仮に冰と紫月がまだ日本にいることを鑑みて、こっちでの状況は親父と源さんに頼んでいく」
「ああ、すまねえなカネ。向こうに行けば、ファミリーの方からも動ける人員は出してもらえる。親父と兄貴に連絡を入れておく。李と他に数人を一緒に連れて行くが、劉はここに残ってカネの親父さんたちと合流し、引き続き女と拉致犯の割り出しに当たってくれ」
「かしこまりました。ではすぐに手配を――」
こうして、周と鐘崎は一路香港へと向かうことになったのだった。
◇ ◇ ◇
一方、冰と紫月はそろそろ香港に着陸しようとしていた。
二人が部屋で寝ていると、見知らぬ男が朝食を持ってやって来た。
[――は、まだ暢気に寝てやがる。おい、起きろ! メシを持ってきたぞ]
言葉じりは荒いが、特に蹴るでも殴るでもなく、丁寧に朝食の乗ったトレイをテーブルへと置いている。いわば”付録”で連れてきてしまった二人への扱いに戸惑っている様子が窺えた。
モゾモゾと起き出した紫月を見るなり、ホッとしたように溜め息をついたことからして、どう接するべきか決めかねているのだろう。
[気が付いたか? もうすぐ着陸だ。その前にメシを食っておけってよ]
言い方からして、誰かに指示されて食事を運んできただけと思われる。
[あー、さんきゅ。んじゃ、遠慮なくご馳走になるわ]
[お、おう……。飲み物はそこだ。冷蔵庫に入ってるから適当にやってくれ]
男はそれだけ言い残すと、すごすごと部屋を後にしていった。
トレーの上にはパンとフルーツ、ハム、ソーセージに卵料理といった、いわゆる機内食のようなものが乗せられていた。
「ふぅん? ま、当然一般路線じゃねんだろうから? プライベートジェットってところかね。つーことは、拉致犯はそれなりに金持ちってわけか」
紫月が独りごちていると、冰も目覚めたのか、まぶたを擦りながら布団から顔を出した。
「冰君、おはよ! 朝メシだってさ」
「ご飯……ですか?」
「ああ。今、チンピラ君が置いてった」
トレーを指差しながら紫月が笑う。彼の軽快な仕草もそうだが、言葉遣いのひとつひとつにしてもユーモアが感じられる。何故だかとても癒やされる気がして、冰もつられるように微笑んでしまう。
正直なところ、こんな状況下で笑顔を見せていられるのは紫月のお陰である。冰は本当に有り難く思うのだった。
「そういえば紫月さん、広東語お上手ですよね」
昨夜の店内でも男たちに広東語で応対していたし、今し方の朝食についてのやり取りもおそらく広東語だったのだろう。
鐘崎親子は仕事柄、香港や台湾などに出向く機会も多いとのことだから、流暢でも不思議ではないが、紫月が話せることは正直なところ意外だったのだ。
「分かった。仮に冰と紫月がまだ日本にいることを鑑みて、こっちでの状況は親父と源さんに頼んでいく」
「ああ、すまねえなカネ。向こうに行けば、ファミリーの方からも動ける人員は出してもらえる。親父と兄貴に連絡を入れておく。李と他に数人を一緒に連れて行くが、劉はここに残ってカネの親父さんたちと合流し、引き続き女と拉致犯の割り出しに当たってくれ」
「かしこまりました。ではすぐに手配を――」
こうして、周と鐘崎は一路香港へと向かうことになったのだった。
◇ ◇ ◇
一方、冰と紫月はそろそろ香港に着陸しようとしていた。
二人が部屋で寝ていると、見知らぬ男が朝食を持ってやって来た。
[――は、まだ暢気に寝てやがる。おい、起きろ! メシを持ってきたぞ]
言葉じりは荒いが、特に蹴るでも殴るでもなく、丁寧に朝食の乗ったトレイをテーブルへと置いている。いわば”付録”で連れてきてしまった二人への扱いに戸惑っている様子が窺えた。
モゾモゾと起き出した紫月を見るなり、ホッとしたように溜め息をついたことからして、どう接するべきか決めかねているのだろう。
[気が付いたか? もうすぐ着陸だ。その前にメシを食っておけってよ]
言い方からして、誰かに指示されて食事を運んできただけと思われる。
[あー、さんきゅ。んじゃ、遠慮なくご馳走になるわ]
[お、おう……。飲み物はそこだ。冷蔵庫に入ってるから適当にやってくれ]
男はそれだけ言い残すと、すごすごと部屋を後にしていった。
トレーの上にはパンとフルーツ、ハム、ソーセージに卵料理といった、いわゆる機内食のようなものが乗せられていた。
「ふぅん? ま、当然一般路線じゃねんだろうから? プライベートジェットってところかね。つーことは、拉致犯はそれなりに金持ちってわけか」
紫月が独りごちていると、冰も目覚めたのか、まぶたを擦りながら布団から顔を出した。
「冰君、おはよ! 朝メシだってさ」
「ご飯……ですか?」
「ああ。今、チンピラ君が置いてった」
トレーを指差しながら紫月が笑う。彼の軽快な仕草もそうだが、言葉遣いのひとつひとつにしてもユーモアが感じられる。何故だかとても癒やされる気がして、冰もつられるように微笑んでしまう。
正直なところ、こんな状況下で笑顔を見せていられるのは紫月のお陰である。冰は本当に有り難く思うのだった。
「そういえば紫月さん、広東語お上手ですよね」
昨夜の店内でも男たちに広東語で応対していたし、今し方の朝食についてのやり取りもおそらく広東語だったのだろう。
鐘崎親子は仕事柄、香港や台湾などに出向く機会も多いとのことだから、流暢でも不思議ではないが、紫月が話せることは正直なところ意外だったのだ。
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