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恋敵
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「カネの言うように、この女は何らかの形で俺と縁があるのかも知れねえな……」
元恋人といわれても正直なところ思い当たらないが、冰がわざわざ自ら危険を冒してまで連れて逃げたところからすると、そう考えるのが妥当だ。
きっと心を乱しながらもこの女を庇わずにいられなかったのだろう。今現在、彼がどこでどうしているのか、どんな気持ちでいるのかということを想像すれば、周は居ても立っても居られない心持ちだった。
ただひとつ救いがあるとすれば、冰の側に紫月がいてくれるということだ。
「カネ、すまねえな……。俺のことで一之宮まで危険に追い込んでしまっているかも知れん」
自責するように言う周に、鐘崎は首を横に振ってみせた。
「まだお前のせいと決まったわけじゃねえ。仮にそうだとしても気に病むんじゃねえ。冰のことは心配だろうが、紫月も一緒なのは不幸中の幸いだ。俺とお前で必ずあいつらを救い出そう」
力強い言葉が心に沁みる。鐘崎とて紫月も行方不明になっているこの現状では、心配なのは変わらないはずだが、冰の側に彼がいるから幸いだとまで言ってくれる。それだけ自分の伴侶に対して自信があり、彼ならばある程度どんな事態に陥っても、その時々で一番安全と思える対策が取れると信じ切っているからこその言葉なのだ。
「ああ、二人共に……ぜってえ無事に取り戻す――」
周の短いひと言には渾身の思いが込められていた。
◇ ◇ ◇
その頃、紫月と冰の方は既に日本を離れた機上の人となっていた。
「……さん、……月さん! 紫月さん!」
ユサユサと肩を揺さぶられる感覚で、紫月はぼんやりと目を開けた。まぶたの向こうには真剣な顔つきでこちらを覗き込んでくる大きな瞳が揺れている。
「……? ん、あれ……? 俺、どうした……んだ?」
次第に意識がはっきりしてくる毎に記憶も蘇ってきた。
「――ッ!? そうだ! 冰君……! ……って、痛っ……!」
「紫月さん! よかった、気が付いた! あ、急に動いちゃダメです!」
ガバッと起き上がろうとしたところを必死の勢いで止められた。
「そういや俺ら……確かあの川っぺりで――!」
そう、スタンガンのようなもので急襲されたことを思い出したのだ。
「……けど、冰君が無事で良かった。あの状況じゃヘタしたら離ればなれってことも有り得たからな」
「ええ、俺もそれだけは安心でした。実は俺もスタンガンを食らったようなんですが、紫月さんの方がマトモに入っちゃったようなんです。俺のは擦った程度だったんで、かろうじて意識だけはあったんですよ」
「そうだったのか……。つか、女は? 例の女はどうした?」
側には冰だけで、肝心の女の姿が見当たらない。狭くて薄暗いが、ザッと見渡したところベッドやソファなどがある小さな部屋といった感じの場所にいるらしかった。
「つか、ここ何処なんだ?」
「それが……驚かないでくださいね。多分ですが、ここは飛行機の中です」
「飛行機……!?」
冰が声を潜め気味で言うので、一瞬大声を上げそうになったのをグッとこらえて小声で聞き返した。
「俺は……意識はあったんですが、身体が思うようにならなかったんで、ずっと倒れたふりをして様子を窺っていたんです。あのレストランに押しかけて来た男たちは、やはり例の女の人を追って香港からやって来たらしいことが分かりました」
「やっぱ香港絡みか――」
元恋人といわれても正直なところ思い当たらないが、冰がわざわざ自ら危険を冒してまで連れて逃げたところからすると、そう考えるのが妥当だ。
きっと心を乱しながらもこの女を庇わずにいられなかったのだろう。今現在、彼がどこでどうしているのか、どんな気持ちでいるのかということを想像すれば、周は居ても立っても居られない心持ちだった。
ただひとつ救いがあるとすれば、冰の側に紫月がいてくれるということだ。
「カネ、すまねえな……。俺のことで一之宮まで危険に追い込んでしまっているかも知れん」
自責するように言う周に、鐘崎は首を横に振ってみせた。
「まだお前のせいと決まったわけじゃねえ。仮にそうだとしても気に病むんじゃねえ。冰のことは心配だろうが、紫月も一緒なのは不幸中の幸いだ。俺とお前で必ずあいつらを救い出そう」
力強い言葉が心に沁みる。鐘崎とて紫月も行方不明になっているこの現状では、心配なのは変わらないはずだが、冰の側に彼がいるから幸いだとまで言ってくれる。それだけ自分の伴侶に対して自信があり、彼ならばある程度どんな事態に陥っても、その時々で一番安全と思える対策が取れると信じ切っているからこその言葉なのだ。
「ああ、二人共に……ぜってえ無事に取り戻す――」
周の短いひと言には渾身の思いが込められていた。
◇ ◇ ◇
その頃、紫月と冰の方は既に日本を離れた機上の人となっていた。
「……さん、……月さん! 紫月さん!」
ユサユサと肩を揺さぶられる感覚で、紫月はぼんやりと目を開けた。まぶたの向こうには真剣な顔つきでこちらを覗き込んでくる大きな瞳が揺れている。
「……? ん、あれ……? 俺、どうした……んだ?」
次第に意識がはっきりしてくる毎に記憶も蘇ってきた。
「――ッ!? そうだ! 冰君……! ……って、痛っ……!」
「紫月さん! よかった、気が付いた! あ、急に動いちゃダメです!」
ガバッと起き上がろうとしたところを必死の勢いで止められた。
「そういや俺ら……確かあの川っぺりで――!」
そう、スタンガンのようなもので急襲されたことを思い出したのだ。
「……けど、冰君が無事で良かった。あの状況じゃヘタしたら離ればなれってことも有り得たからな」
「ええ、俺もそれだけは安心でした。実は俺もスタンガンを食らったようなんですが、紫月さんの方がマトモに入っちゃったようなんです。俺のは擦った程度だったんで、かろうじて意識だけはあったんですよ」
「そうだったのか……。つか、女は? 例の女はどうした?」
側には冰だけで、肝心の女の姿が見当たらない。狭くて薄暗いが、ザッと見渡したところベッドやソファなどがある小さな部屋といった感じの場所にいるらしかった。
「つか、ここ何処なんだ?」
「それが……驚かないでくださいね。多分ですが、ここは飛行機の中です」
「飛行機……!?」
冰が声を潜め気味で言うので、一瞬大声を上げそうになったのをグッとこらえて小声で聞き返した。
「俺は……意識はあったんですが、身体が思うようにならなかったんで、ずっと倒れたふりをして様子を窺っていたんです。あのレストランに押しかけて来た男たちは、やはり例の女の人を追って香港からやって来たらしいことが分かりました」
「やっぱ香港絡みか――」
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