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恋敵
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「別れるって……あんたねえ」
「あの焔が男と付き合ってるだなんて、何の冗談かと思ったけど……それがこんな子供だなんて信じられない! あなた、噂じゃ焔の秘書をしてるっていうじゃないの! しかも……今度彼と結婚まがいのお披露目をするんですって? それこそ冗談じゃないわよ! どれだけ図々しいのかしら!」
「ちょっ……待て待て! いったいどこでそんな話聞いて……」
「とぼけたって無駄よ! 香港の社交界じゃもっぱらの噂になってるそうじゃない! アタシは今は日本暮らしだけど、香港の女友達に聞いたんだから確かよ! あの周ファミリーが養子を取ることになったって……。しかもただの養子じゃなくて、焔の生涯の伴侶だなんて……納得できるわけないわよ!」
金切り声で女は騒ぎ立てた。
とにかくは彼女を落ち着かせて、言い分を聞くしかない。冰の胸中が穏やかでないのは百も承知だが、少しでも情報が多い方が後で周に確かめる為にもいいと思った紫月は、なるべく感情を逆撫でしないように話を聞き出すことにした。
「あんた、こっちに住んでるってわけか? 元々は香港なんだろ?」
女の方も何か話さずにはいられないのか、それとも自分がどれだけ冰よりも勝っているのかということを誇示したいのか、こちらから尋ねもしないことまで饒舌に語り始まった。
「アタシが日本に来たのはこの春からよ! 焔がこっちで起業したって聞いてから、彼を追い掛けてくる為に苦労して日本語だって覚えたんだから! やっと就職が決まって、引越し先を探すのだって本当に大変だったわ。でも焔に会う為だもの。いろんなこと犠牲にして頑張ってきたのよ! それで……ようやくこっちでの生活にも慣れて……いざ焔に会いに行こうと思ってた矢先だったのに……」
つまり、そんな中で周と冰の縁談話を耳にしたというわけか。
「だったらさ、まずは氷……いや、周焔本人に打診するべきじゃねえか? いきなり冰君に向かって文句言うのは筋違いだろうが」
「そんなこと分かってるわよ! 焔に会いに彼が経営してるっていう会社に行ったけど追い返されたの!」
「追い返された?」
「アポイントはあるかとか、仕事以外のプライベートは取り次げないとか……何なの、あの受付の女! とりつく島もない門前払いだったわよ!」
女が捲し立てるのを聞きながら、冰は自身の中で必死に気持ちを整理していた。
(この人……随分難しい言い回しを知ってる……。必死に日本語を勉強したって言ってたけど、本当にすごい努力をされたのかも)
『とりつく島もない』とか『門前払い』とかの言葉がすんなり出てくるということは、外国人が話すにはかなり慣れていないとなかなか難しいのではないかと思えるからだ。
それに、受付嬢に追い返されたということだが、もしかしたらあの矢部清美あたりが応対したのかも知れないと思った。彼女ならありそうだ。
「あの焔が男と付き合ってるだなんて、何の冗談かと思ったけど……それがこんな子供だなんて信じられない! あなた、噂じゃ焔の秘書をしてるっていうじゃないの! しかも……今度彼と結婚まがいのお披露目をするんですって? それこそ冗談じゃないわよ! どれだけ図々しいのかしら!」
「ちょっ……待て待て! いったいどこでそんな話聞いて……」
「とぼけたって無駄よ! 香港の社交界じゃもっぱらの噂になってるそうじゃない! アタシは今は日本暮らしだけど、香港の女友達に聞いたんだから確かよ! あの周ファミリーが養子を取ることになったって……。しかもただの養子じゃなくて、焔の生涯の伴侶だなんて……納得できるわけないわよ!」
金切り声で女は騒ぎ立てた。
とにかくは彼女を落ち着かせて、言い分を聞くしかない。冰の胸中が穏やかでないのは百も承知だが、少しでも情報が多い方が後で周に確かめる為にもいいと思った紫月は、なるべく感情を逆撫でしないように話を聞き出すことにした。
「あんた、こっちに住んでるってわけか? 元々は香港なんだろ?」
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つまり、そんな中で周と冰の縁談話を耳にしたというわけか。
「だったらさ、まずは氷……いや、周焔本人に打診するべきじゃねえか? いきなり冰君に向かって文句言うのは筋違いだろうが」
「そんなこと分かってるわよ! 焔に会いに彼が経営してるっていう会社に行ったけど追い返されたの!」
「追い返された?」
「アポイントはあるかとか、仕事以外のプライベートは取り次げないとか……何なの、あの受付の女! とりつく島もない門前払いだったわよ!」
女が捲し立てるのを聞きながら、冰は自身の中で必死に気持ちを整理していた。
(この人……随分難しい言い回しを知ってる……。必死に日本語を勉強したって言ってたけど、本当にすごい努力をされたのかも)
『とりつく島もない』とか『門前払い』とかの言葉がすんなり出てくるということは、外国人が話すにはかなり慣れていないとなかなか難しいのではないかと思えるからだ。
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