極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
195 / 1,212
恋敵

1

しおりを挟む
「――本当にいいのか?」
「それは……俺の台詞だよ。本当にいいの?」
 週末の連休前の晩、夕食を終えてくつろいでいた周の部屋のリビングでの会話である。周焔と雪吹冰は大きなソファに横並びで腰掛けながら、風呂上がりの紹興酒を楽しんでいた。
「俺の方はいいに決まってる。香港の親父も継母も、それに兄貴夫婦も満場一致で快諾だしな」
「うん……それはもちろん、すごく有り難いんだけど。でも……図々しくないかな。いくら何でもお父様の養子にしていただくなんて……さ」
 二人が話し合っていたのは、冰が正式に周家の籍に入るかどうかということについてだった。
 恋人として付き合うようになってからの年月としては確かにそう長くはない。だが、出会ってからは十二年余りだ。その間、周はずっと冰を気に掛けていたし、意識としては既に他人ではないのだ。
「もちろん、お前が雪吹の名を大事に思うのは分かっているつもりだ。だが、俺としては籍を同じくしたいってのも事実だ。何ならあざなに”雪”のを入れてもいいんじゃねえか?」
「白龍、うん、ありがとう。俺は名前が変わるのは何とも思ってないんだ。ただ……周家の籍に入れてもらうなんて図々し過ぎやしないかなって、それが心配なだけ。ご家族はいいって言ってくれても、周囲の目もあるだろうし……」
「そんな気遣いは必要ねえよ。肝心なのは、お前がこれからもずっと俺と一緒に生きてくれるかってことだけだからな」
「それはもう……! 白龍さえいいなら、俺はずっと側にいさせて欲しいよ」
「だったら決まりだ。周家の籍に入ってずっと俺の側にいろ」
 逞しい腕で肩を抱き寄せ、髪にそっと口づける。
「ん、うん……! ありがとう、白龍」
「ありがとうは俺の台詞だ。明日にも香港の親父に正式に返事をする。いいな?」
「うん」
 父の隼から二人を生涯の伴侶として披露目をと言われてからひと月余り、毎日のように話し合って周と冰はその厚意に応えることを決めたのだった。

 それから数日後、いつものように周と共に自宅のダイニングで夕飯をとっていた時だ。
「冰、今やってる締めの仕事を片付けたら一度香港に行くぞ。一応、来週の中頃にと予定している。披露目の日程や詳細について親父たちと打ち合わせをすることになってるんでな」
「あ、うん! お父様たちに言ってくれたんだ?」
「ああ、親父たちも手放しで喜んでくれてたぞ。継母なんか、もう大はしゃぎで大変だそうだ。俺はともかく、冰に着せる服は何にしようとか、引き出物はあれにしようとかこれがいいとか、実母と一緒になって毎日のようにあちこちの店を見て回っているらしい」
「お母様たちにまでいろいろとご足労掛けて……申し訳ないとも思うけど、でも……そんなふうに気に掛けていただけて嬉しいな」
 ポッと頬を赤らめる冰を、周は愛しげに見つめていた。
「あと数日後だからな。お前も支度しておいてくれ」
「分かった! 白龍の下着とか着替えの服とかも用意しておくね」
「ああ。頼んだぜ、奥さん!」
 ニッと頼もしげに微笑んだ周に、再び頬を染めてうなずく冰だった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

処理中です...