164 / 1,212
狙われた恋人
18
しおりを挟む
「……何だ、藪から棒に――」
「自分で言うのもナンですが、確かに俺は――ディーラーとしての腕はまあまあいい方だと思います。でも、神業というほどじゃない。そんな俺を――周一族を敵に回してまで手に入れる価値はあるのかなって思いまして」
「――いきなりどうした。謙遜するな。キミの腕が確かなのは春節イベントの時にこの目で確かめさせてもらった。”その”周一族を敵に回したとて手に入れる価値は充分にある。俺はそう踏んでいるが――」
「……そうですか。そんなに高く見てもらえて、俺も光栄ですけどね。でも――正直なことを言ってしまうと、俺、そんなにいいヤツじゃないですよ?」
「――どういう意味だ」
この張という男は、どうやらこちらのことを周家の養子だと思い込んでいるようだし、ここはひとつそれで通すのもいいかも知れないと冰は思っていた。
「あなたもさっき飛行機の中でおっしゃってましたけど、身寄りを亡くした俺を拾って育ててくれた黄のじいちゃんが亡くなった途端に、周一族に取り入って養子にまでしてもらった俺です。恩も感謝も、義理も人情も全然ない無礼なヤツですよ? 周さんの養子になったのだって、香港マフィアの頭領といわれる家柄なら贅沢な暮らしができると思ったからですし」
まるで悪気のなく平然と言ってのける冰の様子に、張は軽く眉根を寄せてみせた。
「――それが本当のキミだというのか? さっきまでは随分と気の弱そうな、というよりも性質の好さそうな若者に見えていたがね」
「猫を被っていただけです。だってそうでしょう? あなたがどんな人なのかも分からないし、おとなしく様子を見るのは当然でしょう? ただ、張さんが本当にこんな俺でもいいとおっしゃってくださるなら――俺、張さんの元で暮らす人生もありかなって思って」
「――ほう? これはまた……驚きの発言だな」
「正直言って、俺は安泰に暮らしていけさえすれば、周さんでも張さんでもどちらでもいいんですよ。ただ、周さんに毒針を打ち込んで殺したりとか……そういうのは絶対に御免です。例え足がつかないって言われても、ここに来た直後に周さんに何かあれば、疑われるのは必須です。相手は香港を仕切っているマフィアなんですから。追い掛けられて一生逃げ回るなんて冗談じゃない。俺は平穏に生きたいんです」
「ほう……? 随分とまた狡猾なことだな」
「そういう人間なんですよ、俺。周さんの養子になったのだって、大きなカジノでディーラーをさせてもらえるんならと思っていたのに、日本語ができるからって理由だけで、今は日本の商社で秘書をさせられてます。生活はまあ快適だし、仕事は楽だし、別に今のままでも文句なんてないんですけどね。でも、本心を言えばやっぱりディーラーがしたいんです。張さんは俺をディーラーとして認めてくれているようですし、俺としてはその方がどんなに嬉しいか……」
切なげに瞳を震わせながら、上目遣いで張を見やる。今にも瞳にたまった涙の粒が零れて落ちそうな表情で、冰は儚げに微笑んでみせた。
「自分で言うのもナンですが、確かに俺は――ディーラーとしての腕はまあまあいい方だと思います。でも、神業というほどじゃない。そんな俺を――周一族を敵に回してまで手に入れる価値はあるのかなって思いまして」
「――いきなりどうした。謙遜するな。キミの腕が確かなのは春節イベントの時にこの目で確かめさせてもらった。”その”周一族を敵に回したとて手に入れる価値は充分にある。俺はそう踏んでいるが――」
「……そうですか。そんなに高く見てもらえて、俺も光栄ですけどね。でも――正直なことを言ってしまうと、俺、そんなにいいヤツじゃないですよ?」
「――どういう意味だ」
この張という男は、どうやらこちらのことを周家の養子だと思い込んでいるようだし、ここはひとつそれで通すのもいいかも知れないと冰は思っていた。
「あなたもさっき飛行機の中でおっしゃってましたけど、身寄りを亡くした俺を拾って育ててくれた黄のじいちゃんが亡くなった途端に、周一族に取り入って養子にまでしてもらった俺です。恩も感謝も、義理も人情も全然ない無礼なヤツですよ? 周さんの養子になったのだって、香港マフィアの頭領といわれる家柄なら贅沢な暮らしができると思ったからですし」
まるで悪気のなく平然と言ってのける冰の様子に、張は軽く眉根を寄せてみせた。
「――それが本当のキミだというのか? さっきまでは随分と気の弱そうな、というよりも性質の好さそうな若者に見えていたがね」
「猫を被っていただけです。だってそうでしょう? あなたがどんな人なのかも分からないし、おとなしく様子を見るのは当然でしょう? ただ、張さんが本当にこんな俺でもいいとおっしゃってくださるなら――俺、張さんの元で暮らす人生もありかなって思って」
「――ほう? これはまた……驚きの発言だな」
「正直言って、俺は安泰に暮らしていけさえすれば、周さんでも張さんでもどちらでもいいんですよ。ただ、周さんに毒針を打ち込んで殺したりとか……そういうのは絶対に御免です。例え足がつかないって言われても、ここに来た直後に周さんに何かあれば、疑われるのは必須です。相手は香港を仕切っているマフィアなんですから。追い掛けられて一生逃げ回るなんて冗談じゃない。俺は平穏に生きたいんです」
「ほう……? 随分とまた狡猾なことだな」
「そういう人間なんですよ、俺。周さんの養子になったのだって、大きなカジノでディーラーをさせてもらえるんならと思っていたのに、日本語ができるからって理由だけで、今は日本の商社で秘書をさせられてます。生活はまあ快適だし、仕事は楽だし、別に今のままでも文句なんてないんですけどね。でも、本心を言えばやっぱりディーラーがしたいんです。張さんは俺をディーラーとして認めてくれているようですし、俺としてはその方がどんなに嬉しいか……」
切なげに瞳を震わせながら、上目遣いで張を見やる。今にも瞳にたまった涙の粒が零れて落ちそうな表情で、冰は儚げに微笑んでみせた。
18
お気に入りに追加
867
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる