161 / 1,212
狙われた恋人
15
しおりを挟む
その後、夜通しでの捜索が続けられ、一夜が明けた頃のことだった。
「頭領、張を発見しました! ヤツがたった今、郊外にある自宅に戻って来たのを確認しました。冰さんも一緒です!」
張の邸を張っていた者たちからの報告にどよめきが起こる。
「よし、すぐに出向くぞ!」
時刻はまだ朝方だったが、周は間髪入れずに立ち上がると、鐘崎と源次郎を連れて張の邸へと向かった。
その頃、冰もまた苦渋の選択を迫られていた。
周との電話では、マカオの空港に付いたらすぐに解放するような話向きだったはずが、張は何とその約束をあっさり反故にしたのだ。通話を終えた後も、さすがに周一族の縁者と知ってか手荒なことはされなかったものの、懇々と嫌味のようなことを聞かされ続けたのであった。
「まさかキミが周家の養子になっていたとはな。厄介なことになったもんだ」
「養子……?」
(……白龍がそう言ったんだろうか……?)
冰は確かに周と共に暮らしているし、彼の家族にも会ったものの、周家と養子縁組をしたわけではない。張というこの男が聞き違いをしたのか、はたまた周に何か考えがあって養子だなどと言ったのかは不明である。ここは、むやみなことは言わないに限ると冰は思っていた。
「とぼけても無駄だ。今の電話で周焔がそう言っていた。キミは家族だとな」
「――家族」
「てっきり黄の養子だとばかり思っていたが、育ての親が亡くなった途端に周家の養子になるなんざ、キミも案外薄情なヤツだな。いや――やり手というべきか。香港マフィアの頭領の周一族相手に……どうやって取り入ったのか知らないが、大したタマだな」
「……そんな。取り入っただなんて……」
「まあ、周一族もキミのディーラーとしての腕を買ってのことなんだろうが、まさか養子にまでするとは……。つまり、それほどキミの腕がいいってことなんだろうがな」
張にとっては、周一族がそんなにまで欲しがるこの冰という男の腕前に、ますますもって興味と執着心が湧いたようだった。――だが、それならどうしてカジノのディーラーとして使わずに、日本の商社などで秘書をさせているのかということが理解できないところではある。
「周焔というのは――確か次男坊だったな。ヤツが日本で起業していたのは意外だったが、キミを秘書として側に置いているのは何故だ?」
「……何故って……それは……」
まさか本当の経緯など言えるはずもない。というよりも、言う義理もないといった方が正しいか。冰が黙っていると、張は焦れたように自らの推測を語り始めた。
「確か、キミの亡くなった両親は日本人だったな。つまり――キミは日本語が達者だから日本の企業で重宝されているということか? そんな理由でディーラーをさせずに秘書として使うなんぞ……まったく、宝の持ち腐れもいいところだ!」
張は一人で憤っていたが、その後に彼から飛び出した言葉は冰にとって驚愕といえることだった。
「頭領、張を発見しました! ヤツがたった今、郊外にある自宅に戻って来たのを確認しました。冰さんも一緒です!」
張の邸を張っていた者たちからの報告にどよめきが起こる。
「よし、すぐに出向くぞ!」
時刻はまだ朝方だったが、周は間髪入れずに立ち上がると、鐘崎と源次郎を連れて張の邸へと向かった。
その頃、冰もまた苦渋の選択を迫られていた。
周との電話では、マカオの空港に付いたらすぐに解放するような話向きだったはずが、張は何とその約束をあっさり反故にしたのだ。通話を終えた後も、さすがに周一族の縁者と知ってか手荒なことはされなかったものの、懇々と嫌味のようなことを聞かされ続けたのであった。
「まさかキミが周家の養子になっていたとはな。厄介なことになったもんだ」
「養子……?」
(……白龍がそう言ったんだろうか……?)
冰は確かに周と共に暮らしているし、彼の家族にも会ったものの、周家と養子縁組をしたわけではない。張というこの男が聞き違いをしたのか、はたまた周に何か考えがあって養子だなどと言ったのかは不明である。ここは、むやみなことは言わないに限ると冰は思っていた。
「とぼけても無駄だ。今の電話で周焔がそう言っていた。キミは家族だとな」
「――家族」
「てっきり黄の養子だとばかり思っていたが、育ての親が亡くなった途端に周家の養子になるなんざ、キミも案外薄情なヤツだな。いや――やり手というべきか。香港マフィアの頭領の周一族相手に……どうやって取り入ったのか知らないが、大したタマだな」
「……そんな。取り入っただなんて……」
「まあ、周一族もキミのディーラーとしての腕を買ってのことなんだろうが、まさか養子にまでするとは……。つまり、それほどキミの腕がいいってことなんだろうがな」
張にとっては、周一族がそんなにまで欲しがるこの冰という男の腕前に、ますますもって興味と執着心が湧いたようだった。――だが、それならどうしてカジノのディーラーとして使わずに、日本の商社などで秘書をさせているのかということが理解できないところではある。
「周焔というのは――確か次男坊だったな。ヤツが日本で起業していたのは意外だったが、キミを秘書として側に置いているのは何故だ?」
「……何故って……それは……」
まさか本当の経緯など言えるはずもない。というよりも、言う義理もないといった方が正しいか。冰が黙っていると、張は焦れたように自らの推測を語り始めた。
「確か、キミの亡くなった両親は日本人だったな。つまり――キミは日本語が達者だから日本の企業で重宝されているということか? そんな理由でディーラーをさせずに秘書として使うなんぞ……まったく、宝の持ち腐れもいいところだ!」
張は一人で憤っていたが、その後に彼から飛び出した言葉は冰にとって驚愕といえることだった。
24
お気に入りに追加
867
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる