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狙われた恋人
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気持ちだけが逸る中、時を追うごとにそれぞれの調査によって情報の方もかなり集まってきていた。
渡航許可が降りるまでの間に鐘崎の父親の僚一と側近の源次郎も現場へと到着し、皆で一緒に周所有のジェット機に乗り込んでの待機が続く。監視カメラの映像や今後の動向を探る為の機器類はむろんのこと、不測の事態に備えて応戦用の銃器類なども積み込まれ、体制は万全を期していく。鐘崎と紫月の分のパスポートなども僚一が持参してきていた。
「焔、拉致犯の渡航先だが――行き先はおそらくマカオだ。だが、ジェットの所有者までは割り出しにもう少し時間を要する」
このわずかの間に情報収集を成功させた僚一がそう告げる。
「――マカオか。ということはやはりカネの睨んだ通り、カジノ関係者の線が有力だな。俺たちは一旦香港に飛び、そこからはヘリでマカオに潜入するしかねえか……。下手に空港で入国の時間を費すよりは融通がきく香港の方が都合がいい。兄貴に手配を頼もう」
周が香港到着と同時にヘリを待機させておいてくれるよう段取りをつける。と同時に、春節イベントに来ていた来場者の中からマカオに拠点を置くカジノ関係者を洗い出す作業が進められていった。
一方、その少し前のこと――、冰の方も拉致犯に拘束されたまま、彼らのものとおぼしきプライベートジェットへと連れ込まれていた。
周の社を出ると、まずは車の中でスマートフォンを取り上げられ、目隠しまでされてしまった冰は、身の安全を考えて、敢えて逆らう素振りを見せずにここまで来た。下手に抵抗すれば何をされるか分からないからだ。
特には会話もなく、じっとしたまま言いなりの彼が目隠しを解かれたのは、機内に乗り込んですぐのことだった。
「手荒なことをしてすまない。どうしてもキミと話がしたくて、少々強引なことをした無礼を謝罪する」
視界が戻ってきたことで眩しさに目を細めた冰を待ち受けていたのは、腰まである黒髪が印象的な長身の男だった。
「あなたは……いったい……。何故、俺を……ここは何処ですか?」
見たところすぐに飛行機の中だというのは理解できた。いわゆるファーストクラスのような座席が並ぶ室内の装飾と、先程から聞こえている飛行機の離着陸の音で、ここが空港ではないかと思っていたからだ。
確かにラグジュアリーな造りながら、周のプライベートジェットを体験している冰からすれば、かなり無機質に感じてしまう。周のジェットには通常の航空機のように座席ももちろんあったが、豪華ホテルの客室のような部屋がいくつもあり、空を飛んでいるという感覚を忘れさせてしまうような異次元だったからだ。
恐る恐る室内を見渡していると、目の前の長髪の男が自己紹介をしてよこした。
「私は張敏という。マカオでカジノを経営している」
「カジノ……」
冰は驚きに眉をひそめた。
渡航許可が降りるまでの間に鐘崎の父親の僚一と側近の源次郎も現場へと到着し、皆で一緒に周所有のジェット機に乗り込んでの待機が続く。監視カメラの映像や今後の動向を探る為の機器類はむろんのこと、不測の事態に備えて応戦用の銃器類なども積み込まれ、体制は万全を期していく。鐘崎と紫月の分のパスポートなども僚一が持参してきていた。
「焔、拉致犯の渡航先だが――行き先はおそらくマカオだ。だが、ジェットの所有者までは割り出しにもう少し時間を要する」
このわずかの間に情報収集を成功させた僚一がそう告げる。
「――マカオか。ということはやはりカネの睨んだ通り、カジノ関係者の線が有力だな。俺たちは一旦香港に飛び、そこからはヘリでマカオに潜入するしかねえか……。下手に空港で入国の時間を費すよりは融通がきく香港の方が都合がいい。兄貴に手配を頼もう」
周が香港到着と同時にヘリを待機させておいてくれるよう段取りをつける。と同時に、春節イベントに来ていた来場者の中からマカオに拠点を置くカジノ関係者を洗い出す作業が進められていった。
一方、その少し前のこと――、冰の方も拉致犯に拘束されたまま、彼らのものとおぼしきプライベートジェットへと連れ込まれていた。
周の社を出ると、まずは車の中でスマートフォンを取り上げられ、目隠しまでされてしまった冰は、身の安全を考えて、敢えて逆らう素振りを見せずにここまで来た。下手に抵抗すれば何をされるか分からないからだ。
特には会話もなく、じっとしたまま言いなりの彼が目隠しを解かれたのは、機内に乗り込んですぐのことだった。
「手荒なことをしてすまない。どうしてもキミと話がしたくて、少々強引なことをした無礼を謝罪する」
視界が戻ってきたことで眩しさに目を細めた冰を待ち受けていたのは、腰まである黒髪が印象的な長身の男だった。
「あなたは……いったい……。何故、俺を……ここは何処ですか?」
見たところすぐに飛行機の中だというのは理解できた。いわゆるファーストクラスのような座席が並ぶ室内の装飾と、先程から聞こえている飛行機の離着陸の音で、ここが空港ではないかと思っていたからだ。
確かにラグジュアリーな造りながら、周のプライベートジェットを体験している冰からすれば、かなり無機質に感じてしまう。周のジェットには通常の航空機のように座席ももちろんあったが、豪華ホテルの客室のような部屋がいくつもあり、空を飛んでいるという感覚を忘れさせてしまうような異次元だったからだ。
恐る恐る室内を見渡していると、目の前の長髪の男が自己紹介をしてよこした。
「私は張敏という。マカオでカジノを経営している」
「カジノ……」
冰は驚きに眉をひそめた。
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