137 / 1,212
香港蜜月
31
しおりを挟む
ところが――だ。
「何……ッ!?」
何と、開いたカードはフォーカードどころか、ワンペアにもならない不揃いだった。
「……どうして……そんなはずは……」
既に声にもなっていない。全身をガクガクと震わせながら、その顔面は蒼白を通り越して真っ白になっていく。
そんな男を穏やかな様子で見据えながら、冰は静かに言った。
「お客様がフォーカードを磁気で束ねてくるのは分かっていました。イカサマをなされたのは貴方の方ですね」
「……な……にを……」
先程から少々困惑した素振りを見せていたのは、油断をさせる為のディーラー側の作戦だったのだということを、今になって思い知らされる。男は硬直したままヨロヨロと後退り、掛けていた椅子ごと後方へと崩れ落ちてしまった。
「こんの……ガキが! ふ……ざけるな……! そんなはずはない……そんな……!」
仮に磁気で束ねたフォーカードが見破られていたとしても、男が冰にチェンジさせたのはたったの一枚だ。どんなカードが来ようが、束ねたはずのフォーカードが崩されるわけはないのだ。
最初に配られた五枚を確認した時には、確かにフォーカードは揃っていたはずだ。しかも絵札だった。見間違えるはずはない。
百歩譲ってチェンジの際にしくじったとして、最悪でもスリーカードで勝てたはずなのに、実際に裏返してみれば全くの不揃いになっていた。いったいどうすればこんな結果になるのだろう。男は頭の中を真っ白にしながらも、テーブルの上にあったアタッシュケースにかじりつくようにして覆い被さると、すぐさまそれを抱えて逃げ出そうとした。
「退けッ! 邪魔だ、退きやがれ!」
だが、周りは既にファミリーの側近たちが取り囲んでいる。逃げられるわけもなかった。
すぐに取り押さえられ、現金の入ったアタッシュケースも取り上げられてしまった。
一方、その様子を隣のルーレットのテーブルで窺っていた男の仲間も、彼を見捨ててその場を立ち去ろうとしたところ、レイと紫月に足を引っ掛けられて転ばされてしまった。
「あら! あらあら、大変! 大丈夫、あなたたち?」
わざとらしい女言葉の紫月に見下ろされる傍らで、鐘崎が俊敏に二人を取り押さえる。もがく彼らのポケットからこぼれ落ちた物を、これまたわざとらしく拾い上げたレイが、場内の客たちに見せびらかすように高々とそれを掲げてみせた。
「おい、こりゃ一体何だ?」
カチカチとボタンを押したり戻したりしながら、
「ああー! もしかしてあんたら! あっちの男とグルで、ルーレットでもイカサマしてたんじゃねえのか? どうりでさっきっから連勝するわけだ!」
こうして仲間たちもすぐにファミリーの側近に取り押さえられ、苦しくも企みは大失敗に終わったのだった。
一方、カジノの入り口は既にすべてが閉鎖されており、他にもイカサマを仕掛けた仲間がいないかという捜査からも逃れる手立てはなかった。その間、裏方でイカサマ組織の割り出しに取り掛かっていた源次郎が、日本にいる鐘崎の父親とリモートで繋ぎながら、早速に敵の正体を突き止めていたのだ。
場内には帽子の男らの他にも業者を装った数人が潜り込んでいるのも分かって、そちらもすべてお縄にしたのだった。
「何……ッ!?」
何と、開いたカードはフォーカードどころか、ワンペアにもならない不揃いだった。
「……どうして……そんなはずは……」
既に声にもなっていない。全身をガクガクと震わせながら、その顔面は蒼白を通り越して真っ白になっていく。
そんな男を穏やかな様子で見据えながら、冰は静かに言った。
「お客様がフォーカードを磁気で束ねてくるのは分かっていました。イカサマをなされたのは貴方の方ですね」
「……な……にを……」
先程から少々困惑した素振りを見せていたのは、油断をさせる為のディーラー側の作戦だったのだということを、今になって思い知らされる。男は硬直したままヨロヨロと後退り、掛けていた椅子ごと後方へと崩れ落ちてしまった。
「こんの……ガキが! ふ……ざけるな……! そんなはずはない……そんな……!」
仮に磁気で束ねたフォーカードが見破られていたとしても、男が冰にチェンジさせたのはたったの一枚だ。どんなカードが来ようが、束ねたはずのフォーカードが崩されるわけはないのだ。
最初に配られた五枚を確認した時には、確かにフォーカードは揃っていたはずだ。しかも絵札だった。見間違えるはずはない。
百歩譲ってチェンジの際にしくじったとして、最悪でもスリーカードで勝てたはずなのに、実際に裏返してみれば全くの不揃いになっていた。いったいどうすればこんな結果になるのだろう。男は頭の中を真っ白にしながらも、テーブルの上にあったアタッシュケースにかじりつくようにして覆い被さると、すぐさまそれを抱えて逃げ出そうとした。
「退けッ! 邪魔だ、退きやがれ!」
だが、周りは既にファミリーの側近たちが取り囲んでいる。逃げられるわけもなかった。
すぐに取り押さえられ、現金の入ったアタッシュケースも取り上げられてしまった。
一方、その様子を隣のルーレットのテーブルで窺っていた男の仲間も、彼を見捨ててその場を立ち去ろうとしたところ、レイと紫月に足を引っ掛けられて転ばされてしまった。
「あら! あらあら、大変! 大丈夫、あなたたち?」
わざとらしい女言葉の紫月に見下ろされる傍らで、鐘崎が俊敏に二人を取り押さえる。もがく彼らのポケットからこぼれ落ちた物を、これまたわざとらしく拾い上げたレイが、場内の客たちに見せびらかすように高々とそれを掲げてみせた。
「おい、こりゃ一体何だ?」
カチカチとボタンを押したり戻したりしながら、
「ああー! もしかしてあんたら! あっちの男とグルで、ルーレットでもイカサマしてたんじゃねえのか? どうりでさっきっから連勝するわけだ!」
こうして仲間たちもすぐにファミリーの側近に取り押さえられ、苦しくも企みは大失敗に終わったのだった。
一方、カジノの入り口は既にすべてが閉鎖されており、他にもイカサマを仕掛けた仲間がいないかという捜査からも逃れる手立てはなかった。その間、裏方でイカサマ組織の割り出しに取り掛かっていた源次郎が、日本にいる鐘崎の父親とリモートで繋ぎながら、早速に敵の正体を突き止めていたのだ。
場内には帽子の男らの他にも業者を装った数人が潜り込んでいるのも分かって、そちらもすべてお縄にしたのだった。
28
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説







鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる