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香港蜜月
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カラカラと音を立てて盤が回転する。
その動きがゆっくりと静止に近付くにつれ、誰もが息を呑むように静寂が立ち込めた。
カタ……ッと音と共にボールがひとつの溝にはまる。
「ノアールの十三番。そちらの美しいご婦人の勝ちです。貴女様のイイ男というのは本当に強運の持ち主でいらっしゃるのですね」
冰がゆったりとした微笑みと共に女装した紫月を見つめると、周囲からは溜め息まじりのどよめきが上がった。
「んまぁ……! なんてことでしょ! ホントに勝っちゃったわ、アタシ!」
紫月が胸前で両手を擦り合わせながら歓喜の声を上げる。
なんと冰は見事に帽子の男らのイカサマをかわしただけではなく、紫月の賭けた黒の十三番にボールをピタリとはめてみせたのだ。
溜め息の渦が次第に歓声へと変わる中、真っ青になって震え出したのは他でもない、帽子の男とその一味だった。
「バ……バカな……こんなことが……」
ワナワナと額に青筋を立てて拳を振るわせている。特に帽子の男は、仲間とおぼしき男女を睨み付けながら、『お前ら、しくじりやがったのか!』という顔付きで鬼のような形相に変わっている。それもそのはずだ。男の賭けた金額は、普通では考えられないほどの桁違いな額だったからだ。
今のワンゲームで一瞬にして大金をすってしまった男は、引っ込みがつかないとばかりに突如バンッとテーブルを叩いて立ち上がった。
「おいコラ! お前らグルだな! そこの女と……それからディーラーのお前だ! 今のはイカサマだろうが!」
男が怒鳴り上げると同時に、周は冰を守るべくサッと彼を庇うように腕を広げて自らの背で隠した。
だが、冰はひどく落ち着いた様子で、全く動じていないという静かな口ぶりで対応を買って出た。
「お客様、どうぞお気を鎮めてお座りください。当カジノに於いて、イカサマなど断じて有り得ません」
何ならもう一度勝負致しますか? と、穏やかに微笑んだ冰に、帽子の男はギリギリと眉間を筋立てながら円盤からボールを掴み取ると、勢いよくそれを叩き付けた。
「ふざけるな! だったら今度はあれで勝負だ!」
隣のカードゲームのテーブルを指さすと、
「ディーラー! お前と俺の一騎打ちといこうじゃねえか! ただし、今度はイカサマされちゃ敵わねえからな、カードは俺が切らせてもらう!」
前代未聞の勝手な言い分に、周囲を固めていたファミリーの側近たちが身構える。だが、それよりわずか先に、冰は落ち着いた態度で男からの申し出に受けて立つと言い放ったのに驚かされた。
「いいでしょう。では、カードはお客様がお切りください。ただし、配るのは私がさせていただきます」
元々アンフェアな勝負だ、そのくらいは融通していただいてもいいですねといったふうにニッコリと微笑まれて、帽子の男はギリリと唇を噛み締めた。
「い、いいだろう。配るのはてめえに譲る。ただし……カードは一枚ずつ交互にじゃなく、五枚をいっぺんに配ってもらおう」
とんでもないことを言い出した男に、さすがに誰もが眉をひそめる。次第にザワザワとし出す中、冰の口からもまた驚くべき返事がなされたのに、周はむろんのこと、側近たちもみるみると瞳を見開いてしまった。
「それで結構です。賭け金の方は如何なされましょう」
冰に促されて、男の方もまた、とんでもなく法外な金額を口にした。
「賭け金は今のルーレットの倍だ。俺が勝てばアンタにそれを払ってもらう。それで構わねえな?」
よほど自信があるのか、不敵に笑う男に、周りの皆に緊張が走った。
その動きがゆっくりと静止に近付くにつれ、誰もが息を呑むように静寂が立ち込めた。
カタ……ッと音と共にボールがひとつの溝にはまる。
「ノアールの十三番。そちらの美しいご婦人の勝ちです。貴女様のイイ男というのは本当に強運の持ち主でいらっしゃるのですね」
冰がゆったりとした微笑みと共に女装した紫月を見つめると、周囲からは溜め息まじりのどよめきが上がった。
「んまぁ……! なんてことでしょ! ホントに勝っちゃったわ、アタシ!」
紫月が胸前で両手を擦り合わせながら歓喜の声を上げる。
なんと冰は見事に帽子の男らのイカサマをかわしただけではなく、紫月の賭けた黒の十三番にボールをピタリとはめてみせたのだ。
溜め息の渦が次第に歓声へと変わる中、真っ青になって震え出したのは他でもない、帽子の男とその一味だった。
「バ……バカな……こんなことが……」
ワナワナと額に青筋を立てて拳を振るわせている。特に帽子の男は、仲間とおぼしき男女を睨み付けながら、『お前ら、しくじりやがったのか!』という顔付きで鬼のような形相に変わっている。それもそのはずだ。男の賭けた金額は、普通では考えられないほどの桁違いな額だったからだ。
今のワンゲームで一瞬にして大金をすってしまった男は、引っ込みがつかないとばかりに突如バンッとテーブルを叩いて立ち上がった。
「おいコラ! お前らグルだな! そこの女と……それからディーラーのお前だ! 今のはイカサマだろうが!」
男が怒鳴り上げると同時に、周は冰を守るべくサッと彼を庇うように腕を広げて自らの背で隠した。
だが、冰はひどく落ち着いた様子で、全く動じていないという静かな口ぶりで対応を買って出た。
「お客様、どうぞお気を鎮めてお座りください。当カジノに於いて、イカサマなど断じて有り得ません」
何ならもう一度勝負致しますか? と、穏やかに微笑んだ冰に、帽子の男はギリギリと眉間を筋立てながら円盤からボールを掴み取ると、勢いよくそれを叩き付けた。
「ふざけるな! だったら今度はあれで勝負だ!」
隣のカードゲームのテーブルを指さすと、
「ディーラー! お前と俺の一騎打ちといこうじゃねえか! ただし、今度はイカサマされちゃ敵わねえからな、カードは俺が切らせてもらう!」
前代未聞の勝手な言い分に、周囲を固めていたファミリーの側近たちが身構える。だが、それよりわずか先に、冰は落ち着いた態度で男からの申し出に受けて立つと言い放ったのに驚かされた。
「いいでしょう。では、カードはお客様がお切りください。ただし、配るのは私がさせていただきます」
元々アンフェアな勝負だ、そのくらいは融通していただいてもいいですねといったふうにニッコリと微笑まれて、帽子の男はギリリと唇を噛み締めた。
「い、いいだろう。配るのはてめえに譲る。ただし……カードは一枚ずつ交互にじゃなく、五枚をいっぺんに配ってもらおう」
とんでもないことを言い出した男に、さすがに誰もが眉をひそめる。次第にザワザワとし出す中、冰の口からもまた驚くべき返事がなされたのに、周はむろんのこと、側近たちもみるみると瞳を見開いてしまった。
「それで結構です。賭け金の方は如何なされましょう」
冰に促されて、男の方もまた、とんでもなく法外な金額を口にした。
「賭け金は今のルーレットの倍だ。俺が勝てばアンタにそれを払ってもらう。それで構わねえな?」
よほど自信があるのか、不敵に笑う男に、周りの皆に緊張が走った。
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