極道恋事情

一園木蓮

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香港蜜月

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「バカヤロ、脅かすな!」
「別に脅かしたつもりはねえがな。さっきっから何をイチャイチャ内緒話で盛り上がってんのかと思ってよ?」
「……ッ、イチャイチャとはご挨拶だな。こちとら一等真剣な話をだな……」
 ところがである。紫月にGPSの付いたアクセサリーを贈ることを説明した途端、周は自分も冰に持たせたいと思ったのだろう。片眉をジリリとしかめて、羨ましそうにしながらムスーっと頬を膨らませてみせた。
「――俺も買う」
「――は?」
「え……?」
「俺も買うと言ったんだ。冰にも持たせてえ」
 しかめっ面なのは照れ隠しだろうか、鼻息を荒くせん勢いで周が『ウンウン』とうなずきながら独りごちている。
「実際――冰だっていつ何時、どんなことが起こるか分からんからな。俺の側にいる以上、そういった備えは必要不可欠だ。いいことを聞いた。感謝するぜ」
 今まで気付かなかったのが手落ちだと言わんばかりの勢いで、周は丁寧に礼の言葉まで述べると、そそくさと冰の元へと駆けていった。
「冰! おい、冰――!」
「ん? 白龍、何? どうかした?」
「ああ、実はな――」
 早速仲睦まじくショーウィンドウに張り付いている彼らを遠目にしながら、鐘崎と紫月もまた自分たちの宝石選びに戻っていったのだった。
「で、アール、ワイ、オーをフォネティックコードにするとどうなるんだよ」
「ロメオ、ヤンキー、オスカーだな」
「へえ……。なんかそれも遼にピッタシじゃん! ロメオっていやロメオとジュリエットのあれだろ? でもってヤンキーはお前の高校時代とかさ。オスカーは……確か映画かなんかの賞にそんな名前のがあったじゃん? これなら覚えやすくていいわ」
 気に入ったと言いながら、ケラケラと楽しそうに紫月は笑った。
「ロメオとオスカーはまあ分かるが……俺、ヤンキーだったか?」
 さすがの鐘崎もヤンキーと言われては眉根を寄せてしまいそうだ。
「ンだって高坊ん時は不良連中に崇められてたじゃん、お前! 今だから暴露しちまうけど、実はあの頃……俺も不良っぽいお前にときめいたりしてたんだよな、これが!」
 またまた嬉しいことを聞かされて、それこそすぐにでもベッドへ連れ去りたいと思ってしまう。
 愛しくも出来過ぎた伴侶を持つというのは幸せの極みである。男冥利に尽きるというものだが、と同時に、こと欲情に関してだけは忍耐力を試されているようで、なかなかに複雑であると思う鐘崎だった。
 一方、周の方もこれまたなかなかいい感じに話が進んでいるようだ。
 冰は頬を染めながらも嬉しそうな顔をしているし、当の周もご機嫌そのものだ。この四人、似た者同士というべきか、とにかく傍で見ている方が恥ずかしくなるほどに甘くも熱いカップルなのは確かである。
 余談だが、実はこの時、周が冰へと持たせるGPS付きのアクセサリーが後々になって役に立つ時がくるのだが、それはまた別の話である。今はとにかく蜜月の記念に宝石を贈ることに頭がいっぱいの周であった。



◇    ◇    ◇



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