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告げられないほどに深い愛(極道若頭編)
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「この……クソガキが……何をワケの分かんねえことをベラベラと抜かしやがって! だいたい! コイツは男じゃねえか! 男が鐘崎の嫁になれるはずがねえだろうが!」
道内の方は紫月と娘を交互に見ながら声を嗄らして怒鳴り上げる。
「アタシが言ってんのはそういうことじゃないわよ! この人のような大きな器がなけりゃ、鐘崎組の姐さんは務まらないって言ってんの!」
娘はそう啖呵を切ると、紫月に向かって言った。
「ごめんなさい。服は私が自分で破りました。この顔の傷もあなたのおっしゃる通り父がつけました。鐘崎さんは何もしていません。薬を盛られたことに気がついてご自分から座敷を出て行かれたんです」
素直に経緯を認めると、
「それから……ありがとう、これお返しします。嬉しかったわ……」
上着を脱いで差し出しながら丁寧に頭を下げてみせた。
「ごめんなさい。鐘崎さんには本当に申し訳ないことをしました。あなたのご厚意も忘れません」
さすがにヤクザの組長の娘だけあってか、ある種の潔さは兼ね備えているようだ。しっかりとした口調でそう告げると、ピンと背筋を伸ばして、側で警護するように立っていた春日野という組員にこう告げた。
「すぐに鐘崎さんを捜しに行って。きっと薬に苦しみながら、まだあの店の近くに居るかも知れないわ。急いで! お願い!」
春日野という組員は、組長に『もうやめましょう』と促した男だ。察するに、この馬鹿な組長の下には勿体ないような男なのだろう。常識もありそうだし、自らの筋を持っているように思える。
「承知しました。すぐに捜しに参ります。お嬢さんは別の車でお送りします」
春日野は紫月ら鐘崎組の面々にも今一度深く頭を下げると、紫月がしたように自らの上着を脱いで彼女に着せた。そして、このお詫びは後日必ずと言って、娘と共にこの場を立ち去ろうとした。――と、その時だった。
入り口で鉢合わせるように現れたのは、周と源次郎に両脇を支えられて戻って来た鐘崎その人だった。
「若!」
「ご無事で……!」
若い衆らの安堵と感嘆の声が事務所内に轟く。
青ざめたのは道内だ。自らが連れて来た道内組の者たちでさえ、鐘崎を見た瞬間にまるで安堵したような表情を浮かべながらも腰を九十度に折って丁寧に首を垂れている。今し方までの紫月や娘のやり取りを間近に見ていて思うところがあったのだろう。そんな雰囲気を肌で感じるわけか、道内はヘナヘナと腰が抜けたようにしてその場に座り込んでしまった。
「遼……無事で良かった……。すぐに駆け付けてやれなくてすまねえ」
紫月が万感持て余したように告げれば、鐘崎は未だわずか苦しそうにしながらも、その口元に笑みを浮かべて瞳を細めた。
「いいや。よく留守を守ってくれた。感謝している」
そう言って、周と源次郎の手から離れ、紫月に寄り掛かるようにして抱き締めると、
「話は全部聞かせてもらった。道内さん、あんたにも言いてえことはたくさんあるが、今日のところは引き上げてもらう。けじめは後日改めてさせてもらうとする」
そう――、周に救出されてから、ここへ来るまでの車中で、鐘崎は事務所内で起こっているすべての経緯を源次郎と清水の電話を通して聞いていたのだった。
道内の方は紫月と娘を交互に見ながら声を嗄らして怒鳴り上げる。
「アタシが言ってんのはそういうことじゃないわよ! この人のような大きな器がなけりゃ、鐘崎組の姐さんは務まらないって言ってんの!」
娘はそう啖呵を切ると、紫月に向かって言った。
「ごめんなさい。服は私が自分で破りました。この顔の傷もあなたのおっしゃる通り父がつけました。鐘崎さんは何もしていません。薬を盛られたことに気がついてご自分から座敷を出て行かれたんです」
素直に経緯を認めると、
「それから……ありがとう、これお返しします。嬉しかったわ……」
上着を脱いで差し出しながら丁寧に頭を下げてみせた。
「ごめんなさい。鐘崎さんには本当に申し訳ないことをしました。あなたのご厚意も忘れません」
さすがにヤクザの組長の娘だけあってか、ある種の潔さは兼ね備えているようだ。しっかりとした口調でそう告げると、ピンと背筋を伸ばして、側で警護するように立っていた春日野という組員にこう告げた。
「すぐに鐘崎さんを捜しに行って。きっと薬に苦しみながら、まだあの店の近くに居るかも知れないわ。急いで! お願い!」
春日野という組員は、組長に『もうやめましょう』と促した男だ。察するに、この馬鹿な組長の下には勿体ないような男なのだろう。常識もありそうだし、自らの筋を持っているように思える。
「承知しました。すぐに捜しに参ります。お嬢さんは別の車でお送りします」
春日野は紫月ら鐘崎組の面々にも今一度深く頭を下げると、紫月がしたように自らの上着を脱いで彼女に着せた。そして、このお詫びは後日必ずと言って、娘と共にこの場を立ち去ろうとした。――と、その時だった。
入り口で鉢合わせるように現れたのは、周と源次郎に両脇を支えられて戻って来た鐘崎その人だった。
「若!」
「ご無事で……!」
若い衆らの安堵と感嘆の声が事務所内に轟く。
青ざめたのは道内だ。自らが連れて来た道内組の者たちでさえ、鐘崎を見た瞬間にまるで安堵したような表情を浮かべながらも腰を九十度に折って丁寧に首を垂れている。今し方までの紫月や娘のやり取りを間近に見ていて思うところがあったのだろう。そんな雰囲気を肌で感じるわけか、道内はヘナヘナと腰が抜けたようにしてその場に座り込んでしまった。
「遼……無事で良かった……。すぐに駆け付けてやれなくてすまねえ」
紫月が万感持て余したように告げれば、鐘崎は未だわずか苦しそうにしながらも、その口元に笑みを浮かべて瞳を細めた。
「いいや。よく留守を守ってくれた。感謝している」
そう言って、周と源次郎の手から離れ、紫月に寄り掛かるようにして抱き締めると、
「話は全部聞かせてもらった。道内さん、あんたにも言いてえことはたくさんあるが、今日のところは引き上げてもらう。けじめは後日改めてさせてもらうとする」
そう――、周に救出されてから、ここへ来るまでの車中で、鐘崎は事務所内で起こっているすべての経緯を源次郎と清水の電話を通して聞いていたのだった。
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