86 / 1,212
告げられないほどに深い愛(極道若頭編)
18
しおりを挟む
「おい、どうしたッ!? 何があった!?」
一見したところ、二人共に怪我を負っている様子はない。風邪でも引いたのかと思いきや、それどころではなく、紫月にとっては信じ難い事態であった。
「夜分にすみません! 若が来ていないかと思いまして――」
橘よりは年長で、幹部でもある清水がそう訊いた。
「遼二が……!? いや、来てねえが。ヤツがどうかしたのか」
紫月にとってはその名を耳にしただけで、とてつもない焦燥感が湧き上がる。
「実は――つい先程まで組の連中が若と一緒だったんですが、突然姿を消してしまわれたとの連絡がありまして――」
「……ッ、姿を消したってどういうことだ!?」
「今夜は依頼を請け負いがてら、道内組というところの組長と料亭で会食があったんです。うちの組からも若い衆数人が護衛がてら若に同行したんですが、肝心の会食時には人払いされてしまったんだそうです」
清水の言うには、依頼主である道内組長がどうしても鐘崎と二人きりで話がしたいとのことで、付いていった者たちは料亭の外で待機を余儀なくされたとのことだった。
「それから半刻ほど経った頃です。急に店の入り口が騒がしくなったそうで……」
様子を見に行くと、相手側の組員たちが数人でウロウロとし、怒号が飛び交い始めたのだという。
「終いには若と一緒だったはずの道内組長本人まで出てきて、ウチの若い衆相手に鐘崎を逃しやがったのかってすげえ剣幕だったそうです。何のことだかさっぱり分からねえってんで、一先ず我々のところに連絡がきたわけです」
橘も口を揃えてそう訴えてくる。
「何か急な事態が起こったのだと思い、若に電話を入れたんですが出られないんです」
「それもそのはずです! 向こうの組員らが出て行った後で座敷を確認しに行ったところ、廊下に若の携帯が落ちてるのを見つけたそうで……」
これですと言って橘が差し出してきたスマートフォンは、確かに鐘崎のものだった。
「つい今しがた、うちの組員の一人が持ち帰ってきたものです。スマホの中に我々へのメッセージでも残されたのかと思い、失礼かとは思ったんですが調べたところ、特にそれらしきは見つかりませんでした。たった一人でどちらへ行かれたのかも分かりませんし、もしかして怪我でも負われのかと思ってこちらへ伺ったわけですが……」
相手側も捜していたところをみると、彼らが鐘崎を拉致したという可能性は極めて低いと考えていいだろうか。
「ですが、万が一その騒ぎが我々の目をごまかす作戦だったということも鑑みて、今ウチの組員たちを道内の組事務所に差し向けて様子を探っています」
話を要約すると、こうだ。組長と鐘崎二人きりの会食時に何らかの緊急事態が起こり、鐘崎が姿を消してしまった。考えられる原因として、ひとつには鐘崎自身が組長の目を盗んで自ら身を隠したこと。ふたつ目は組長らによって鐘崎が拉致されてしまったこと、そのどちらかの線が強いと思うと清水は言った。
仮にし拉致だとするならスマートフォンを落としていったことにも合点がいくが、相手側も必死になって行方を追っていた様子から察するに、その線は薄いかも知れない。では、もしも鐘崎が自分で座敷を逃げ出したというなら、何故清水らに連絡をしてよこさないのかという疑問も湧いてくる。
「もしかしたらお怪我を負われていて、スマートフォンも見当たらず、連絡の取りようがないのかも知れません」
清水の言葉に紫月も蒼白となった。
一見したところ、二人共に怪我を負っている様子はない。風邪でも引いたのかと思いきや、それどころではなく、紫月にとっては信じ難い事態であった。
「夜分にすみません! 若が来ていないかと思いまして――」
橘よりは年長で、幹部でもある清水がそう訊いた。
「遼二が……!? いや、来てねえが。ヤツがどうかしたのか」
紫月にとってはその名を耳にしただけで、とてつもない焦燥感が湧き上がる。
「実は――つい先程まで組の連中が若と一緒だったんですが、突然姿を消してしまわれたとの連絡がありまして――」
「……ッ、姿を消したってどういうことだ!?」
「今夜は依頼を請け負いがてら、道内組というところの組長と料亭で会食があったんです。うちの組からも若い衆数人が護衛がてら若に同行したんですが、肝心の会食時には人払いされてしまったんだそうです」
清水の言うには、依頼主である道内組長がどうしても鐘崎と二人きりで話がしたいとのことで、付いていった者たちは料亭の外で待機を余儀なくされたとのことだった。
「それから半刻ほど経った頃です。急に店の入り口が騒がしくなったそうで……」
様子を見に行くと、相手側の組員たちが数人でウロウロとし、怒号が飛び交い始めたのだという。
「終いには若と一緒だったはずの道内組長本人まで出てきて、ウチの若い衆相手に鐘崎を逃しやがったのかってすげえ剣幕だったそうです。何のことだかさっぱり分からねえってんで、一先ず我々のところに連絡がきたわけです」
橘も口を揃えてそう訴えてくる。
「何か急な事態が起こったのだと思い、若に電話を入れたんですが出られないんです」
「それもそのはずです! 向こうの組員らが出て行った後で座敷を確認しに行ったところ、廊下に若の携帯が落ちてるのを見つけたそうで……」
これですと言って橘が差し出してきたスマートフォンは、確かに鐘崎のものだった。
「つい今しがた、うちの組員の一人が持ち帰ってきたものです。スマホの中に我々へのメッセージでも残されたのかと思い、失礼かとは思ったんですが調べたところ、特にそれらしきは見つかりませんでした。たった一人でどちらへ行かれたのかも分かりませんし、もしかして怪我でも負われのかと思ってこちらへ伺ったわけですが……」
相手側も捜していたところをみると、彼らが鐘崎を拉致したという可能性は極めて低いと考えていいだろうか。
「ですが、万が一その騒ぎが我々の目をごまかす作戦だったということも鑑みて、今ウチの組員たちを道内の組事務所に差し向けて様子を探っています」
話を要約すると、こうだ。組長と鐘崎二人きりの会食時に何らかの緊急事態が起こり、鐘崎が姿を消してしまった。考えられる原因として、ひとつには鐘崎自身が組長の目を盗んで自ら身を隠したこと。ふたつ目は組長らによって鐘崎が拉致されてしまったこと、そのどちらかの線が強いと思うと清水は言った。
仮にし拉致だとするならスマートフォンを落としていったことにも合点がいくが、相手側も必死になって行方を追っていた様子から察するに、その線は薄いかも知れない。では、もしも鐘崎が自分で座敷を逃げ出したというなら、何故清水らに連絡をしてよこさないのかという疑問も湧いてくる。
「もしかしたらお怪我を負われていて、スマートフォンも見当たらず、連絡の取りようがないのかも知れません」
清水の言葉に紫月も蒼白となった。
19
お気に入りに追加
878
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。



極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる